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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
19/91

第三章 3)おぞましき光景

この章には多少、グロテスクな表現があります。

 壊れた魔法の扉があるという、その地下の一角に近づくにつれて、足下を這うあのグロテスクな怪物たちの数も増えてきた。

 私も最初はそれにいちいちビクビクしていたが、あまりにも数が多く、驚くことにも、恐がることにも疲れてきた。


 プラーヌスもそれを見つけるたびに、松明を持った召使いに焼き払わせたり、自ら魔法の炎で焼き殺したりしていた。

 しかし彼もいちいち関わり合うことを止めて、先を急ぐことを選んだようだ。


 とはいえ、それは元人間であったらしいのだ。

 こうやって、まるで害虫やネズミを退治するように殺していいのか疑問に思わなくもない。


 いや、私だってこの元人間たちを、グロテスクな怪物などと呼んでいる。

 考えてみればそれだって無礼なことだ。


 彼らはこっちに一切敵意を向けてきたりしない。

 何かを訴えるように、私たちのほうによろよろと近づいてくるが、それだけ。


 おそらく一方的な被害者でしかない。

 前の主の狂った所業のせいでこんな醜い姿にされただけなのだ。


 しかしこのグロテスクな元人間たちに関する、あらゆることが私には耐えがたかった。


 その怪物たちが発しているに違いない、まるで魚の頭が腐ったような匂いが辺りに充満していた。

 プラーヌスもアビュも私も、そしてついてくる召使いたちも、布や衣服などで鼻から口まで覆って、少しでもその匂いを避けようとしている。


 しかしそれもあまり効き目がなかった。

 プラーヌスですら、それに耐えかねたように、ときおり咳きこんでいる。


 その見た目のおぞましさに関して、もはや語るまでもないだろう。

 詳しくそれらの怪物の個性を観察する気になんてなれない。


 一体一体、微妙な部分が違っているようだが、どれも足がなく、腕の力でしか前に進めないようにされているところは共通しているようだ。


 馬の頭をつけられている者もいる。

 鳥の身体に変貌されている者もいる。


 だけど人間としての原型をほとんど留めていないくらい改変された怪物は、それほど気持ち悪くないかもしれない。

 むしろ逆に、ほどよく人間の名残を留めつつ、しかし確実に別の何かに変えられている怪物のほうが、私の胃をムカつかせた。


 たとえば一体の胴体に顔が三つも四つも付けられている怪物などは、一人の人間以上に人間っぽさが過剰であり、よりグロテスクさを感じさせているのだ。


 見いていられない。

 吐き気を催すような光景である。

 私は出来るだけ目を閉じながら前を進む。


 私たちはそのグロテスクな生き物たちを跨ぎながら、暗い階段を下り、やがて地下の円形の部屋に到着した。


 そこで私はまた息を飲んだ。

 その円形の部屋が、足の踏み場もないくらいに、たくさんの怪物たちで溢れ返っていたからだ。


 階段の途中に佇んで、階下のその光景をしばらく呆然と眺めていた。


 その円形の部屋も真っ暗で、プラーヌスの傘の先から発せられる魔法の光や、召使いたちの松明だけでは照らしきれない。


 まあ、そのおかげで直接的に地獄のような光景を目にしないで済んだようだ。

 しかし私たちのすぐ下で、あのグロテスクな怪物たちが蠢いている気配はしかと感じられた。


 「いったいどういう目的で、前の主は人体実験なんて?」


 私はその気配に慄きながら、プラーヌスに尋ねた。


 「そんなの単純だよ」


 プラーヌスが返事した。「心臓が二つあれば、それだけ長生き出来るし、脳が二つあれば思考力も増す。これはなかなか有益な実験なのさ。人間を越えた人間を作るための」


 「ってことは、彼らはその実験台?」


 「そう、その失敗作だろうね。しかしそれにのめり込むうちに、前の主は横道に逸れていってしまったのかもしれないね。ただ、どれだけグロテスクな作品を作れるかに血眼を注いだのかもしれない」


 そのうち、クチャクチャ、ネチャネチャと、そんな不気味な音がどこからか聞こえてきた。


 「な、何、これ・・・」


 アビュはそう言ったかと思うと、うずくまって吐き始めた。


 そんなアビュを介抱してやろうとした寸前、私もその音の正体に気づいて嘔吐感を覚えた。


 クチャクチャとまるで肉片を踏みつぶすような音、それはどうやら、怪物たちがお互いの身体をむさぼり喰っている音だということがわかったのだ。


 「彼らは腹を空かせていたようだな」


 プラーヌスも苦笑いしながらそう言って、私のその意見を追認した。


 「前の主がいなくなったせいで、彼らへの食料の供給が止まっていたんだろう。それで怪物たちは空腹に耐えかね、食料を求めて地下室から飛び出てきたのかもしれない。しかし食料は容易に見つからず、いつの間にか共食いを始めたというところか・・・」


 「共食いだなんて、彼らも人間だったんじゃないのか?」


 私は吐き気を抑えながら、プラーヌスを責めるように声を上げた。


 「貧しい寒村では、飢餓のとき人を食べるのは珍しくない。長い籠城戦でもそうだ。それに彼らは、人体実験で脳にも改変が加えられているだろう。いくらか人間らしさを失っていても驚くことじゃない」


 しかし全て焼き殺す。


 プラーヌスはそう言った。


 「この光景は神に申し訳ないからね」


 心なしか、彼のその声には怒りが感じられたかもしれない。


 「出来るだけ後ろに下がるんだ。この部屋、全てを炎で包む」


 プラーヌスは二、三歩階段を下り、いつもの傘を掲げて、何かブツブツと唱え始めた。

 今更言うまでもないだろうが、その傘は魔法を発動させるための道具なのだろう。


 しばらく何も起きなかったが、しかし徐々に部屋中が蒸し暑くなってきた。

 アビュの額に汗が滲んでいるのが見える。

 私も頬に伝う汗を拭う。

 そうかと思うと、床からチロチロと炎が湧き上がって来て、グロテスクな怪物たちを包み始めた。


 炎から逃れようとするかのように、怪物たちの動きが慌ただしくなった。

 だけど炎はそれ以上の勢いで燃え盛っていき、やがて部屋中の怪物たちを真っ赤に染めた。


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