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第七話 アストの影[2]

 午後もアル=シュケイムは炎天下で土を耕さねばならない筈だったが、食堂を出た後、何故か事務局へ向かった。

《何をするつもりだ、アル=シュケイム》

(んー、サボり?)

 その返事に、ラナス=キウトは険悪な唸り声を上げた。

《本気で言っているのか。だとしたら、本気で貴様を殺すぞ》

(……本当、冗談が通じないよね)

 アル=シュケイムは嘆息した。

《私に冗談や戯言を言う時は、相応の覚悟をすべきだな。私はあまり寛容な質ではない》

(それってあれ? 冗談言う度に死ぬ覚悟しろってこと? それこそ冗談キツイよ、ラナス=キウト)

 アル=シュケイムはクスクス笑った。

(いつもならハックして情報盗み読めば良いんだけどさ、この基地、とんでもなく僻地で、しかもすごいアナログでしょ。そうなると、情報の盗み方もすっごくレトロでアナログなやり方になるわけ)

《どういう意味だ》

(つまり、さ)

 アル=シュケイムは微笑した。

(書類を盗み読むか、人をたらしこむか、ってこと)

《何故この基地に飛ばされたか、覚えていないようだな》

 ラナス=キウトが呆れたように、冷淡に言った。

(そもそも僕は無実だったわけだし)

《だが、実際にデートした事は間違いないだろう》

 ラナス=キウトの指摘に、アル=シュケイムは一瞬詰まる。

(そ、そりゃそうだけど……だけど、僕にだって付き合いってものが……)

《どの女性も美人だという事以外に共通点はなく、仕事でも私事でも然程接点はなかったし、重要な付き合いもなかったように記憶しているがな》

(息抜きとか情報交換とか、色々あるだろっ。僕は淋しがり屋で甘えん坊さんなの!)

《……否定はしないが、お前は節操や節度が必要だと思うぞ、アル=シュケイム。お前はもう子供とは言い難い年齢になったのだからな》

「判ってるよ!」

 アル=シュケイムは真っ赤な顔で叫んだ。通りすがりの職員が怪訝そうな顔で見るのを、肩をすくめてやり過ごす。

《いや、お前はちっとも判っていない。いつまで経っても十歳の子供の頃と変わらない。お前は子供だ》

(はいはい、判りました。判ったから黙ってて。いい加減うるさいよ、ラナス=キウト)

 アル=シュケイムの言葉に気分を害したのか、他に理由があるのか、ラナス=キウトは黙り込んだ。

 アル=シュケイムは気を良くして、事務局のドアを開けた。

「はぁ!? なんですって!?」

 突然室内に響き渡る野太い声。

 事務員の男性が、誰かと無線通信を行っているようだった。

(トラブルかな?)

 不思議に思いながら、入り口に一番近い席に座っている事務員に近寄る。

「ねぇ、聞きたい事があるんだけど」

「はぁ?」

 一番下っ端と見られるその男は、アル=シュケイムとそう年齢が変わらないように見えた。

 剣呑な目つきで睨まれたのは、アル=シュケイムの悪評が主な要因だったが、元凶は全く気にしない。

「忙しいところ悪いんだけどさ、この基地の周辺地図とか資料を見せてくれない?」

「……あんたの今の仕事に関係ないだろう」

 若い事務員の言葉に、アル=シュケイムはそっと声を低めて、相手を下から見つめて、囁くように言う。

「そんな事は判っている。だけど、嫌な予感がするんだ」

「はぁ? 嫌な予感? そんなもの……」

「君も聞いているだろう? 僕の本来の仕事は『魔』を倒す事だ。それは、長官も良く知っている。僕は常人には感知できない『魔』の気配を感じ、探知する事ができる。だから……言いたい事が判るかな?」

「まっ……まさか!?」

 事務員が真っ青になる。アル=シュケイムは意味深な笑みを浮かべ、頷いた。

「事は重大で深刻だ。しかし、まだ確証はないんだ。だから、その予感・予測を確かめるためにも資料が必要だ。しかし、事が事だけに、大っぴらにすると混乱しかねない。だから、内密で調べたいんだ。協力お願いできるかな?」

「わ、判りました。今、お持ちします」

 事務員は慌てて、席を立って、書庫へと向かった。

 それを目線で見送り、アル=シュケイムは素早く机の上の書類に目を通す。

(うーん。さすがにそれっぽい書類はないか。ま、別にそこまで期待はしてなかったけど)

 見つけたのは、基地の備品であるらしい携帯発電機の故障の修理報告書、近くにあるオクワノ村の村長からの依頼書、基地の備品や食料品などの請求書などだ。

(村に現れる盗賊団の捕縛・退治なんて、僕には関係ないしなぁ。たぶん日付からいって本部には既に連絡して、手配・派遣済みだろうし)

 アル=シュケイムは首を捻る。

(なんで僕がこの基地に配属されたんだ。リヤオスの意図が読めない。……にしても、野菜・果物が随分高いな。基地の畑でも作ってるし、この地区で生産されている筈なのに、何故こんな値段になるんだ? これじゃ砂漠地帯のカーソワール周辺の相場より高いぞ)

 そう考えて、盗賊団という言葉を思い出す。

(盗賊団による被害なんだろうか。憶測じゃ答えは出ないな。それより遅いな、どうしたんだろう)

 そこへ事務員が現れる。アル=シュケイムは微笑を浮かべた。

「お待たせしました」

 事務員が資料を渡す。

「有り難う」

 頷きながら書類を受け取る。

「ところで、空いている机と椅子を借りられるかな?」

 事務局にはなかったため、会議室に通された。

「こちらでよろしいですか」

 カラム基地に空調設備はない。閉めきった室内は、むぁっとした熱気がこもっていて、ドアを開けた途端、額が汗ばんだ気がした。

 アル=シュケイムは無言で事務員を見つめた。

「窓を開けて結構ですから。では、失礼します」

「冗談?」

 アル=シュケイムが首を傾げながら問うと、事務員は無言で頭を下げて、立ち去った。

「……何コレ」

 アル=シュケイムはぼやいた。


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