ベースボールボール・破 パート3
短いです。そしてちょっと中途半端です。
今、俺はアカリの背中の上で胡座をかいて座している。……先ほどよりは変態度は減ったように思うが、しかしどうだろう。不思議なことに、鬼畜度が増したような気がする。
罪悪感にかられながらも俺がアカリの背中に乗り続けているのは、その必要があるからだ。どうもこの『洋館』は、どんな魔法でも使ったのか外観より数倍、内部がでかくなっているようで、テケテケのスピードがなければこの日のうちに『目的地』に着けないのだそうだ。その『目的地』というのがどこだかは知らないが、そこまで行ってから(忘れかけていたが)長谷川に頼まれていた『野球ボール』を探すのも遅くはないだろう、と思い、俺は大人しくアカリの言葉に従った。
──まあ、『案内人』の指示に従うのは礼儀だしな。マナーを守る、大人な俺だ。
そんな風にとりとめのないことを考えていると、不意にアカリが口を開いた。
「ねえ、カズヤ君」
……………………。
女子にファーストネームで呼ばれた。え、なんだろう。とってもむずがゆい。
しかしそんな感情をおくびにも出さず、俺は返事を返すのだった。
「ん。なんだ?」
「暇だね」
「……ああ、確かにな」
少し不気味だ。先刻の激闘(?)が嘘のように静まりかえっている。
(嵐の前の、静けさってやつか……?)
なんとなく嫌な予感がした。しかしそんな俺の心中を察する気配を、毛ほども感じさせない明るい声で、アカリは俺に提案してきた。
「おしゃべりでもしよっか」
「……はぁ?」
なんだその『黒子のバスケ』の番外編みたいなノリは。
戸惑っていると、アカリは勝手に喋りだした。
「女装って、男としての進歩だと思わないかな?」
………………。
ああ、駄目だこいつ。
腐ってやがる。早すぎたんだ。
……まあ、腐るのに早いも遅いもないのだが。
できれば腐らないでほしい。
切に願いながら、俺はアカリに反論する。
「はァ? 『女装』が進歩なわけねえだろ。あんなの、進歩っつーよりむしろ退歩、のち逮捕だ」
なにげに上手いことを言った俺だった。
少し得意げに見ると、アカリはおもむろに言った。
「三点、かな」
採点が辛かった。……いや。
「五十点満点中で」
鬼だった。え、えええ? そんなに駄目か、俺のセリフ。
床に『の』を書いていじけていると、クスクス笑いながら俺のその様を眺めていたアカリが、若干声のトーンを落として訊ねてきた。
「そういえばさあ」
「………………ンだよ」
「スネてないで聞いてよ。あのさ、さっき、『ゾンビ』がどうたら言ってたよね?」
「……? ああ、多分言ったな」
質問の意図がわからず、それがなにか? と、そんな風に見ると、アカリは俺の予想だにしないことを言った。
「この館に、ゾンビなんていないよ」
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…………………………………………………………………………………………………………ゑ?
ここらへんからどんどんシリアスになって行きます。
あと余談ですが、『女装』のくだり、あそこは男子校に通っている兄との会話をもとにしたものです。