ベースボールボール・破 パート2
今回はちゃんとコメディーです。ゆるーい感じです。どうぞ。
──ホントもう、俺、塩に足向けて寝れねーよ。
いつも俺は塩を足下に置いて寝てなどいないのだが。まあ、ノリである。
丹念に制服を払い、髪を払いながら、呑気にああ、カバン買い換えないとなあ、なんて考えていると、突如ガシィッ!! っと足をつかまれ、俺は情けない叫び声を上げた。
「ぅわああああああ……って、テケテケ?」
「……………………」
沈黙したまま足をつかみ続けるテケテケに、若干の恐怖を覚えながら俺は訊ねた。
「……えーと。なんで戻ってきてんのお前」
もうどっか行ったかと思ってたのに。
だが、テケテケは俺の質問を無視、というか、最初から聞くつもりがなかったように、被せて発言したのだった。
「なんでウチを逃がしたの?」
…………………………。
「いや、別に逃がそうとしたわけじゃ──」
言いかけると、またもやテケテケは俺の言葉を遮って言う。
「あ、ごめん。君の質問に答えるのが先だったね。ウチは『投げられたことに文句を言いにきた』んだよ」
そして、ニコニコとキレイに微笑み、
「はい」
暗に『お前も答えろ』と促してきた。
……こえー。
この女、マジこえー。え。つーかなんだこれ。ホラーの恐さじゃないよな。
なんていえばいいんだろう。『妻に浮気を問い詰められる夫な気分』みたいな。
答えるしかねーな、うん。
俺は真顔で真っ直ぐにテケテケの目を見つめて、言葉を、紡ぐ。
「いや、だから逃がしたつもりはねえって。えっと、あれだ。囮ってやつだ」
言っててちょっと首を傾げる。あれ? さっき俺、『口が裂けても言えない』とか言ってなかったか?
まあ。バレなきゃいい。この口実が一番『それらしい』のも確かだしな。
案の定テケテケは、額に少し青筋を立てつつ、しかし自制して。
うんうんと納得したようにうなずいてみせて。
「言い逃れはできないから、正直に答えてね?」
…………こえーなあ。本当に本当に。
俺はためいきをついた。
はあ。俺、なにか悪いことしたっけ。なんでこんなに追いつめられてるんだろうな。
諦めて、俺は言った。
「……まあ、どうなるかわからなかったからな。塩はゾンビには効いたが、あの二体に効くかどうか保障出来なかった……仮に効いたとしても、今度は近くにいたテケテケ、お前にも効くかもしれない。どちらにせよ、リスクが高いからな。あそこにいられるのは、邪魔でしかなかったんだよ」
まあ、別段投げる必要性はなかったんだがな。それは口をつぐんでおこう。
さあて、これで納得してくれただろうか。
と。
「……カリ」
「あん?」
テケテケがうつむき、なにか呟いた。心なし、顔が赤らんでいるように見える。
……んん? 幽霊なのに?
ホラーだ。なんて今さらだが。
それにしても、なんだ? 何を言おうとしているのだろう。
思っていると、テケテケが再び口を開くのが見えて、俺は意識をそちらに向けた。
テケテケは言った。
「ウチの名前。『アカリ』って呼んで。『テケテケ』だと変なカンジするから」
……む。確かに。気にしていなかったが言われてみれば、『テケテケ』って固有名詞じゃあねえよな。
ゲーム的に言うと、『種族名』みたいなものか。俺だったらいちいち『人間』って言われるようなものか……。
めちゃくちゃ煩わしいな。それは確かに『変なカンジ』だろう。
「ん。じゃあアカリ」
断る理由がないので早速そう呼ぶと、
「う、うん……」
「???」
なぜか照れたように目をそらすテケテケ、もといアカリ。……あ。
「そういえば、俺は名乗ってなかったな。つーか、知ってるのか? 俺の名前」
『案内人』って言ってたしな。なぜだか、俺は客人扱いされているようだ……にしては手荒い歓迎だったが。
けれども、テケテケは黙って首を横に振る。あっそう。てっきり知っているとばかり思っていた。
ま、知らなければ教えればいいだけか。
というか、なんで俺はお化けと親睦を深めているのだろうか。話してると、すげー楽しいんだがな。
まあ、それでいいか。
「灰村和矢だ。好きなように呼べ」
名乗った。名乗ると、アカリは焦ったように、素早く俺に背を向けこう言った。
「乗って!」