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ベースボールボール・破 パート1

 あえて言います。“序”は本当に、『序の口』に過ぎなかったと。

 言うほど“破”ではありませんが、まあ『破れかぶれ』ってことで。

 どうぞ!

 俺が(特に理由もなく)カメラ目線のキメ顔で言ったセリフに、テケテケはおののき、つぶやいた。

「『ここは俺に任せて先に行け』って、君……」

「いや、そんなこと言ってねえよ」

 セリフを捏造するな。そんな見え見えの死亡フラグを、この俺が立てるとでも思っているのか。

 なぜなら。

「俺は、このピンチを切り抜けられたら、好きな女の子に告白しようと思っているからな」

「うわっ! あからさまな死亡フラグだ! もう君、実は一度死んでるんじゃないかな?」

 …………………………。

 幽霊に縁起でもないことを言われた。

 えーと、じゃあもっと不吉なことを言おうか。

 死亡フラグの他の例。


 『今から面白いことやりまーす』。


 ……まあ冗談はこのくらいにして。

「テケテケ」

「ん~、しょうがない。幽霊っていうのも案外気楽でいいものだから、ここはいさぎよく──って、きゃああああ……」

「お前邪魔」

 なにやらほざいているテケテケを問答無用で放り投げると、彼女は叫び声の尾を残して、薄暗い『洋館』の通路の奥へと、あっという間に消えていった。

 ……んん? なんかやけに飛んだな。重さとか空気抵抗とかまったく感じなかったんだが。幽霊だから、物理現象の干渉を受けないのかも知れないな。テケテケのあの高速移動も、そういう理屈なら納得だ……

 ──さて、と。

「待っててくれてアリガトウ。じゃあ、俺も逃げていいか?」

 二体の怪物は無言で──そもそも喋ることができるのかもさだかではないが──足場を変え、俺の退路と進路を絶つ。

 俺もまた、その様子を無言で見つめ、そして思う。

 ──どうしよう。

 目の前にいるのは体長4メートル越えの怪物『人造人間フランケンシュタイン』。後ろを見ると、牙を尖らせ唸る獣、『狼男ウェアウルフ』。こいつもやはり、3メートルはあろうかという人間離れした巨体の、化獣バケモノである。

 …………………………。

 なんだろう。上手く言おうとして失敗したときの、『死にてえええ!』という心の叫びは、ティーンエイジャー特有の自意識過剰がもたらすものなのだろうか。

 まあ。いやそれはまあ、それはともかく、と、してだ。

(わかっていたことだが……)

 逃げ場がない。いや、本当、逃げられるならそれが一番なんだがな。……どうもこいつら、俺を狙ってるらしい。口が裂けても言えないことだが、テケテケを投げてみたのは、一種『囮』を意図してのことでもあった。投げてみて、それに怪物たちが反応してくれれば、その隙に逃げよう……と。

 無反応だったが。そして嘘だが。ちょっと考えないでもなかったが、十中八九、テケテケには危害を加えることはないだろうと思っていた。

 勘だけど。

 ……いや、どこが『十中八九』だよ。

 自分で自分に突っ込みながら、俺は思うのだった。


 どうしよう。


 ……情けなっ! 俺、情けなさすぎるだろ。

 まったく。まったくまったく。これじゃあガチで死亡フラグを回収するハメになりそうじゃねえか。

 しかし、どうしようもこうしようもなく。俺に出来ることなど、たかが知れていて。

 

 ──前から後ろから、二体が同時に襲い来る。


 そのとき俺の脳裏に去来したのは『狼男ウェアウルフの殺し方』だった。

 まあ有名だろう。答えは、銀の弾丸シルバーブレットで心臓を撃ち抜く、だ。

 不可能だ。そんなもの、日本の一介の高校生が所持しているはずがない。

 俺はなすすべなく、カバンを盾にするようにして、床に這いつくばって。

 

 ──頭上から、布地の裂ける音がした。


 余談だが、俺はわりあい不真面目な生徒で、毎日勉強道具を持って帰るような殊勝な習慣を持たないのだ。

 だから今日も、週末にも拘わらず、俺のカバンの中は、ほとんどカラに近い状態……『だった』。──そう。

 そう。俺のカバンは、カラではない。後は、まあ、言うまでもないことだが。

 俺は叫ぶ余裕もなく、呟くのだった。

「……しょっぱ」

 俺のカバンを、狼男ウェアウルフが縦に横に斜めに、奇麗に八つに分けた、その瞬間である。


 間欠泉のごとく、血飛沫が吹きあがった。


 溶けて熔けて融けて液状になって、瞬く間に揮発して。

 その血液は”毒“に犯されていた。頭からその血を浴びた人造人間フランケンシュタインもまた、皮膚が捲れ、頭蓋をとろかされ、脳を心臓を骨を筋肉を。

 ……いちいちグロいのはなんとかならないのか?

 俺は髪も制服も真っ白になりながら、思った。


 ──ナイス、塩!

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