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ベースボールボール・序 パート4

序幕、完!

 えっと。毎度毎度唐突で申し訳ない限りなのだが、少し昔の話をしよう……といってもそこまで昔の話じゃあない。

 去年の春の話だ。

 ……いやマジで全然昔じゃねえな。

 まあ、一年くらい前か。

 俺は幽霊に遭った。



 俺はその日、無性にカップ焼きそばを食べたくなり、近所のコンビニに買いに出たのだった。

 まだ夕方だったが、人通りはかなり少なかった。

 俺は先日買いはしたものの、読める状態ではなくなってしまったコンビニコミックを併せて購入し、なんの問題もなく、その場を後にした。

 そして帰り道。俺は、そいつに遭った……



 中途半端ではあるが、ここで一旦切ることにする。……あのときのことは、正直思い出したくない。

 さておき、なぜここでこの話をしたのか。

 俺は、そいつに遭ったことで、もうこの街でこれ以上奇妙なことが起こるものか、と高をくくっていた。

 実際、ここ最近はなにもなく、実に平和だった──先ほどゾンビに追われるまでは。

 天災は忘れたころにやって来る。

 そして、二度あることは、三度ある。

 勝手に中に入った不法侵入者な俺を「いらっしゃい」と迎えたのは、同い年くらいの少女だった。

 ──ただし下半身がない。

 テケテケ。日本ではなかなかにポピュラーなお化けだろう。

 ……ふむ。

「いらっしゃいません」

 バタン、とドアを閉める。

 よし、帰ろう……としたところで、グイと襟首をつかまれ、

「いらっ……しゃああああい!」

「う……おおおおお!?」

 中に引きずり込まれた。

 ……う

「わああああああ!!」

 パニックを起こし、俺は叫び声をあげながら逃げた。

 しかし、外にではない。

 俺は引きずり込まれた勢いのまま直進し、

「ぃっ痛うううううう!?」

 壁に激突した。

 テケテケは、そんな俺を見て、冷静に言った。

「……抜けてるね、君」

「…………ってえ」

 肉体的にも、精神的にも。

 …………つか、マジで痛いんだが。ギャグ補正なしのパターンのやつっぽいな。鼻とか折れてんじゃねえ?

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 まあ、折れてはいない、な?

 あまり自信はない。

 痛む鼻をおさえていると、テケテケが一歩踏み出して(ただし出したのはもちろん足ではなく手だ)来たので、俺は身構えた。

 (たしか……)

 テケテケって、めちゃくちゃ怖いお化けだった気がする。自分のなくした下半身の『かわり』を人から奪う、みたいな。

 ……よく見ればすげえ可愛い顔してるが、騙されないぞ!

 あの日、筋肉ムキムキのオッサンの霊に追いかけまわされた記憶トラウマがフラッシュバックして震えていると、目の前に立つ(いや、立ってはいないのだが)テケテケは言った。

「恐がらなくても大丈夫。ウチは、ただの『案内人』だから」

 ……………………。

 やけにフレンドリーだった。えと、とりあえず……

「『ウチ』とか言うな」

 世俗的すぎる。ただの女子高生かよ。

 突っ込むと、なぜだか恐怖感が薄れた。

 だから訊ねた。

「……『案内』? どういうことだ?」

 いくらまともに見えても、先ほどのゾンビと同じく『化物』には違いないので、信用はできないが。しかし人間は好奇心で動く生き物だ。気になったことは、訊かずにはいられない。

 俺の質問に対して、テケテケはこう回答した。

「禁則事項です♪」

「死ね。……ああ、もう死んでるんだったか」

 電車だかに轢かれて死んだ人の霊だったはず。

 などと傍から見たらほのぼのとした風にも見えなくはないやりとりをしていた俺たちだったが、何か、不審な物音を耳がとらえて(主に俺が)黙りこんだ。

 ……なんだか、ものすごく嫌な予感がするなあ。

 ズシン。ズシン。……まるで怪獣映画のような擬音の足音と共に現れたもの。それは……

「フランケン、シュタイン……?」

 『ドラゴンボール』に出てきた人造人間は、もうそれ人造人間じゃなくて改造人間じゃね? って感じだったが、こいつは違う。

 人の死体をつなぎあわせて造った、まさしく文字どおりの『人造人間』。

 ……Oh。

「っきゃああああああ!? い、いきなりなにするの、君!」

 俺が何をしたか。

 答え。『テケテケの背中に抱きついた』。

 ……この答えだけ聞くと、俺はとんでもない変態ヤローだが、これにはきちんと理由があるのだ。

「……テケテケってたしか、ほふく前進(?)で。えーと時速100キロだっけ? そんくらいの速さで追いかけてくるお化けだったよな?」

「え? うん……。だけどそれと今のこの変態行為と、なんの関係が……?」

 言い方と俺に向ける視線に刺がある。なんだ。人を痴漢みたいに。

 ……対外的に見たら、どうなのだろう。なにも言い返せない気がする。

 けれども俺は言った。

「安心しろ。これに性的な意味など一切含まれない。つーか、誰がお前なんかに好んで抱きつくもんか」

 お化けだしな。あと、引きずり込まれたことは、なにげに俺のプチトラウマとなっている。

 するとテケテケは。

「……それはそれで傷つくような」

「めんどくせっ」

 本当に世俗的だよなあっ! お化けって嫌われてナンボじゃねえのかよ。

 ……話が進まないな。

 以下略!

 そして俺は言った。

「だから。……テケテケ、お前の自慢のスピードで、あの怪物から俺を逃がしてくれないかって頼んでるんだよ。『案内人』なんだろ?」

 その意味は計りかねるが。

 俺が背中にしがみついたまま言うと、なぜかテケテケは鼻で笑って、

「何を言うかと思えば……。安心して。ウチはここの『案内人』。ウチと行動を共にする限り、誰も君に危害をくわえることは──」

 ない、と言おうとしたのだろうが、残念ながら、それが俺の耳に届くことはなかった。


 ドーン!! と、『人造人間フランケンシュタイン』が、先ほどまで俺たちがいた地面を殴り付けてきたからだ。


 『先ほどまで』というのはつまり、俺を乗せたテケテケが、超スピードで回避行動に移るまでの、ということだ。

 ……はえーなー。ちょっと引くほどの速度だ。

 ふむ。

「えー、と。どうしたテケテケ。そんなに急いで」

「逃げます! って、なんでウチ敬語になってるんだろう!?」

「知るかよ。えらく余裕じゃねえかお前」

「君に言われたくないですっ! って、あっ、また敬語!!」

 騒がしいやつだ。というか、俺は別に余裕があるわけじゃあない。

「俺は──現実逃避しているだけだ!」

「かっこよく言い切らないで!」

「うるせえ! こんなん夢だとしか思えねえんだよ!!」

 ……いや。もしかしたら実際には、俺には余裕があったのかもしれない。何せ、聞いての通り、お化けとの会話を楽しんでさえいたのだから。

 だからこそ俺たちは。

「っ……マジか……!!」

 一難去ってまた一難。

 いや。

「挟まれちゃったね。テヘッ☆」

「ブチ殺すぞキサマ」

 俺たちの場合、難は去らず、そのまま……。

 『人造人間フランケンシュタイン』を振りきれず、角を曲がったところで遭遇したのは──

「『狼男ウェアウルフ』……」

 ……って、ん?

「ちょっと待てテケテケ。なんでこいつ狼になってんだ? まだ夕方のはずだろう?」

 今日が満月かどうかは知らないが。どちらにせよ、月が照るにはまだ早い。

 テケテケは、力なくわらって言った。

「気になるのはそこなんだー。よゆーだねー」

 ……うぜぇ。

「現実逃避はお互い様だな。いいから話せ、“自称”『案内人』」

 公称なはずなのになー、とかなんとかブツクサ言いながら、テケテケは説明を始めた。

「『ドラゴンボール』の何巻だったっけ。武天老師様が、消し飛ばしちゃった月を、クリリンの頭で代用したことがあったでしょ? 多分あれとおんなじ感じだと思うよ」

 ……わかりやすいけれど。なんでお化けが日本のサブカルチャーに明るいんだ。

 にしても、クリリンの頭、か。いつだっけ。

「……ああ。二回目の天下一武闘会のときか」

男狼おとこおおかみの話」

 あー、どうでもいいな。楽しいが。

 頭で代用。それはつまり、暗示。ということだ……。

 いやいじめか? 冗談じゃない。定義づけられた『三大怪物』。『暗示』でその二大までが揃うなんて──!

 …………。

「テケテケ」

「ん~? なに~?」

 ……うわあ。諦めてやがる。目にも、声にも、生気が感じられない。いや、幽霊だから、そもそも生気なんて感じられるはずがないんだけど。

 まあ。

「お前、逃げていいぜ」

「え?」

 それでいいんだが。

 なぜだか意表をつかれた顔をしているテケテケに訊ねる。

「お前、俺を乗せてあのスピードなんだから、ここから逃げ出すことなんて、楽勝なんじゃねえのか?」

「……そんなに簡単なことじゃないよ」

「だろうな」

 消え入りそうなテケテケの言葉を、俺はあっさりと肯定する。

 まあ。まあそうだろう。西尾維新の『《物語》シリーズ』で、『最強』とされる怪異に比肩する怪物が、二体だ。日本のお化けごときが、そうやすやすと逃げ切れるわけはない。……ただし。

「まあ、大丈夫だって、お前なら」

 テケテケなら、大丈夫だ。だって。

 笑顔を作って、俺は言った。


「お前だけなら、な。邪魔だから早く行け」

 

 ──さて。まあ、自信はないが──やるしかねえ。

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