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ベースボールボール・急ノ下 パート1


 カップ焼きそばを買って、それからジョジョのコンビニコミックに思いを馳せていた俺がやつに出遭ったのは、どんな必然だったのだろう。ちなみに、もちろん俺はジョジョはコミックスで全巻揃えている。しかし主義として、気に入ったものはなんでも揃えたいと思っている俺は、文庫版や掲載雑誌、雑誌サイズの総集編をも揃えている。当然ながら小説版もだ。 ……関係なかったな。話を戻そう。

 コンビニの袋をぶら下げて、俺は帰路についていた。なんとなく口笛で『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を吹きながら、歩いていると。

 帰り道を半分ほど行ったところで、そいつは俺の目の前に“出現”していた。

 道のどまんなかに、そいつはいた。こちらをじろりとねめつけている、上半身をむき出しにした、筋骨隆々な中年の男。

 俺は立ち止まる。他にどうにかできようか。いや、ない(反語)。

 夕方だった。しかし人通りは少ない。と、いうより、はっきり『ない』と言ってしまっていいだろう。だからこそ、そいつは堂々と、俺の前に姿を現したのだろうから。

 はじめのうち、俺は奇妙に思いつつも、それほど気にはしていなかった。

 俺は関わり合いになりたくないので、遠回りになるがそっちから帰ろうと、回れ右をして……

「ん!?」

 そいつは、あたかも瞬間移動でもしたかのように(というか実際にそうなのだろうが)、俺の前方数メートルの地点でじ……と俺を見ているのだった。

 まぎれもなく、睨んでいる。まるで、俺を憎悪しているような、強い視線……俺は本能的に『ヤバい』と思い、くるりと回って逃げ出した。

 振り向くと、追ってくる。ただそれは『結果』だけだった。走る足音もなく、振り返っても足を動かす様子もないのだが、そいつは一定の間隔を保ち、迫るでもなく、離れるでもなく、しかしついてくるのだ。結果的に追われているような、そういう状況下に、俺はおかれていた。

 それに追ってくるばかりではない。あるときは曲がったかどの先にいたり、またあるときは並走……いや走っているわけではないのだが、まあ、俺の進路を限定するような──何か、ある場所に誘導するように、そいつは動いていた。

 動いてるわけでもないのだが。ともかく、俺はなにがなにやらわからないが、めちゃくちゃに走り回った。ペース配分もなにも考えない全力疾走。膝がガクガクと笑い、口をパクパクと魚のように動かす、もう走れないというところまで走りきると、男の気配はもうないようだった。

 ところで、あなたはご存知だろうか。ホラー映画では定番の、鏡を覗くと背後に人影がある。振り返るが誰もいない。ホッとして前に向き直ると、そいつが目の前にいる……。

 あれって、鏡に映った時点では、霊は後ろにも前にもいないらしい。

 上にいるらしい。

 大の字になって道路の上に横たわった俺の目から空を遮ったのは、力強い腹筋だった。

 目が合った。鋭い視線。俺を、憎々しげに睨みつけている。

 俺は絶叫した。他にどうにかできようか。……いや。


 ない。



 ズドーン、という音で、俺の意識は回想から舞い戻った。気づけばあのスタンドっぽいオッサンは消えており、ただ壁に、野球ボールがめりこんでいるのだった。……えーと、多分俺が投げたんだよな、あれ。めりこむって……どうやら肉体のリミッターが外れたっぽいな。投げた方向を見るに、俺はオッサンに向かって投げたようだが、どんだけ嫌だったんだ俺。

 などと。冷静に観察していたように書いてはいるものの。

「……どうしたんだい。そんなに震えて。なにかいいことでもあったのかい?」

 忍野かよ……と突っ込む気力もなく、俺は体を腕で抱えていた。

 寒かった。震えているのは、そのせいだろう……そうでないことは、自分がよく知っていたのだが。

 あいつ自体は、それほどの恐怖でもなかった……いやめちゃくちゃ恐かったがな? しかしそれよりも、その“後”の出来事が思い出されて──

「な……んだったんだ、あいつは……」

 やっとの思いで、俺は少女に訊ねた。その一言を口に出すだけで、俺の口からは声以外の何かが出てきそうになった。

 少女はキョトン、と答えた。

「『あいつ』……って?」

「だから、あいつだよ。あの、ダサいスタンドみてーなオッサ……う」

 苛立っていいかけて、俺は口をおさえる。少女は「……ああ」と頷くと、

「きみは、『それ』なんだね」と、ニヤッと笑って言った。



 ちなみに彼は鑑賞用、保存用、布教用と、常に三冊ずつ購入します。グッズは自分用のみですが。それに、アニメはリアルタイムでしか見ない派なので 、DVDもBDも持っていません。ドラマCDは持っていたりするのに。どうやって手に入れたのかは不明です。

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