ベースボールボール・序 パート1
始まりです。
これは、俺が高二の時のある13日の金曜日のことだった。そう言うと、フラグがたっていると思われるかもしれない。しかし、事実だから仕方のないこと。あるいは、必然のことだったのだろうか。……よくわからずじまいだが、それはとにかく、その日、帰宅部の俺は家に帰っても寝るだけでやることがないので、やはり仕方なく。誰もいない放課後の教室で、一人寂しくマンガを読んでいたのである。
『未来日記』ってわりと面白いよなぁ、なんて感想を抱きつつ次のマンガ(『銀の匙 Silver Spoon』)の第一巻に手を伸ばしたとき。
ガラッと教室のドアが開いて、そして一人の少女が中に入って来たのだった。
幼くも可愛らしく、長い髪をツインテールにしているその少女……それは、同じクラスの
「長谷川亜華?」
「気安く名前を呼ばないで」
「…………」
怒られた。え。クラスメイトだよな?
戸惑う俺を完全に無視して、長谷川はあくまでも自分のペースで、俺にこう言った。
「灰村和矢君。あなたに頼みたいことがあるの」
言われて、俺はふむ、と少し考えこんだ。
長谷川亜華は美少女である。ゆえに、俺としては、その頼みとやらを聞くだけきいてみるくらい、まったくかまわないことなのだが。
その前に、一つ言っておきたいことがあった。
「気安く名前を呼ぶ『私はいいの』な……は?」
どんな自分ルールだ!! っと、怒鳴りつけるなんて子供のすることか。
クールに行こう。大人の対応を。
「……で? 結局、俺になんの用だ。長谷川?」
わざわざ名前を付け足したところ、俺もまだまだガキなのかもしれない。
さて、長谷川。どう出る?
少しわくわくした気分で待つ俺に長谷川は、
「用、といっても大したことではないのだけれど」
……あっさりスルー。ああ、ナルホド。こいつ、下の名前で呼ばれたくないだけなのか。
よくわからない拘りだ。……そう考えるにとどめて、俺はそれ以上の思考をやめた。
奇妙な自分ルールをもつ少女に、俺はにこやかに言うのだった。
「大したことないことを、他人に頼むな」
チョキで目をパンチされた。