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瑞穂と元カノ。の巻(その2)
孝一郎は佐々木さんを笑顔なのに冷たい目でみた。やばい、あの顔は孝一郎がお怒りモードにスイッチが入った顔だ。佐々木さんは、たぶん“お怒りモード”の孝一郎を見たことがないに違いない。ちょっとおびえている。
「こ、孝一郎。佐々木さんもそろそろ校舎から出なきゃいけない時間だし、そっちも戻らないといけないでしょう?・・・佐々木さん、正門まで送るから、そのときに話さない?ね?」
私は佐々木さんを立たせると、そのまま連れ出そうとした。
「待て。俺も正門まで行く。・・・・悪い、長谷川。図書室の片付け頼んでいいか?」
孝一郎は、ハセちゃんにカフェの片づけを頼んだ。
ハセちゃんは二つ返事で了承し、私を見て「あとでじっくり聞かせてよね」とニッコリした。
すでに“あとのまつり”モードに突入した校内は、一般客の姿もなく校庭が泰斗の生徒であふれていた。私たちは、佐々木さんを連れて周囲の流れと逆行して正門へ急ぐ。
佐々木さんは、さっきの孝一郎の顔つきにすっかり勢いがそがれたらしくて、私におとなしく手を引かれていた。
正門から出た目立たないところに落ち着くと、私は佐々木さんを見た。
「佐々木さん。バタバタしてごめんね。ここでよければ話、聞くよ」
佐々木さんは、決心したように私じゃなく孝一郎を見た。
「平田くん。古川さんは・・・今まで平田くんが付き合ってきた子と、全然タイプが違うじゃない。こういう人が好みになったの?」
そっかー、今まで孝一郎が付き合ってきたのは佐々木さんみたいな“いけてる女子”なのか~。へえ~・・・・私は、すっかり傍観者。
孝一郎は私が考えてることが分かったらしく、苦い顔をして「佐々木さん。こういう人って、なに?俺にとって瑞穂は昔から特別だよ。俺から告白したのは瑞穂だけ。俺が今までの彼女に告白されて付き合ってたのを佐々木さんも知ってるだろ?」
「・・・・平田くんから、告白したの?」
「瑞穂は、のんびりしてて、全然気づかないから」孝一郎は、ふんわりと笑う。
全然気づかない・・・・確かに、告白された日まで孝一郎の気持ち、気づかなかったなあ・・・私、鈍いのか。鈍いんだな。
「・・・平田くんが、そんな風に笑うの見たことない」
佐々木さんがつぶやく。孝一郎って、彼女の前でどんな顔をしていたんだろ?
「今までの彼女にはぜったい呼び捨てを許さなかったし」
へー、そうなのか。私なんて孝一郎は4歳のときから「孝一郎」だもんなー。
「私とは、もうムリなわけ?」
「・・・・・・」
「泰斗祭に来たのは、平田くんの新しい彼女が地味で普通の子っていうから、どこがいいのか確かめたかったからだけど・・・・」佐々木さんは、そこでチラリと私を見た。
「私と付き合ってた平田くんは、クールで近寄りがたい感じがよかったけど、今は違うのね。・・・全然、私の割り込む余地ないし。・・・・あーあ、何のために休み潰して泰斗まで来たんだか。私、帰るわ。・・・・古川さん、迷惑かけてごめんね」佐々木さんは、そのまま帰っていった。
その後、孝一郎は無事表彰に間に合い、生徒会長としての最後の仕事を終えた。
約束どおり、“あとのまつり”恒例の花火を二人で見る。場所はなぜか屋上。
屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ、孝一郎に聞くと“生徒会長の特権だ”と言われてしまった。
「孝一郎の元カノって“いけてる女子”ばっかりだったんだね」
「・・・・告白してきたのが、そういう女子ばっかりだったんだよ」
「クールで近寄りがたい感じがよかったって・・・無愛想な俺様ってだけなのに、好意的にみるとそうなるのか。ほほ~」
「おまえね~」
「孝一郎は確かに表情がとぼしいけどさ。私はそのとぼしい表情が現れてるときのほうが見慣れてるし、好きだけどな」
「瑞穂・・・今、それを言うか・・・まいったな」孝一郎の口調は若干うろたえている。
「なんで?だって、小さい頃から孝一郎の表情は私、わかるもん」
「瑞穂・・・・」
孝一郎が何か言いかけたけど、その瞬間特大の花火が上がった。
「わー、見てみて孝一郎、花火きれいだねー♪」
孝一郎は何か言いかけたみたいだけど、「ま、いいか」とつぶやき、そのまま私の肩をギュッと抱きよせた。
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瑞穂は最強かもしれない。