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不意打ち。の巻
今日は恵ちゃんとデートの日。学校のある駅で待ち合わせをして、目的地へ向かう。
チケットを購入し、美術館に入る。絵のために一定の温度と湿度を保っている館内は涼しい。
「先輩。私、見るのがすごく遅いので、先にどんどん見ていってかまいませんから」と恵ちゃんは言うけど、それじゃデートの意味がない。
「別に大丈夫だよ。おれもじっくり見るの好きだから」
「そうですか?なら、いいんですけど・・・」
ヨーロッパにある美術館の巡回展で教科書に出てくる画家の作品とその同時代の画家の作品を展示しているらしい。
画家はよく分からないけど、やっぱり人を引き付ける才能ってのはすごい。鮮やかな色使いの作品から、地味な色合いでも細かい描写がすごいとか・・・結局、二人とも何もしゃべらずにひたすら絵をみていた。
結局、美術館を出たのは、お昼は過ぎ。おなかがすいたので、遅い昼食を食べることにした。
しばらくぶらぶら歩くと、パスタ屋があったのでここでお昼にする。
「美術館、よかったです。付き合ってくれてありがとうございました。土屋先輩」
「俺も、一点一点丹念に見たよ。すごい作品ばかりだったね。恵ちゃんの提案のおかげだね」
「確かに。すごかったですね・・・でも、私、画家の方の名前が知らない名前が大半で・・・恥ずかしいですね」
「俺もだよ。でもさ、名前は知らなくても絵に引き付けられたんだから、それでいいと思うな。美術って楽しむものでしょ」
「土屋先輩、いいこと言いますね。普段、チャラチャラしてるのに」
「恵ちゃん、その一言は余計だよ~」
「すみません」恵ちゃんが笑った。
お昼を食べて、すこしぶらぶらしているうちに夕方になり、学校の最寄り駅でそれぞれの路線に別れることにした。
「今日は、楽しかったです。土屋先輩」
「俺も楽しかったよ~。」
「息抜きになりました?」
「うん、ありがとね」
「こちらこそ。また付き合ってね、土屋くん。・・・それではっ、失礼します」
一瞬「へ?」とした俺を置いて、恵ちゃんは改札の向こうに走っていってしまった。
今・・・「土屋先輩」じゃなくて「土屋くん」って呼んだ??
うわー。恵ちゃん、なんて不意打ちな。
-「私が“彼氏”だと思えるようになったら、先輩をとって“土屋くん”にします。」-
俺は、恵ちゃんの言葉を思い出して、顔がにやけそうになってしまった。
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土屋先輩のささやかな幸せ、ささやかすぎて、どうしましょう(汗)。