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恵と黒いタラシ。の巻
先輩の発言に私は固まってしまった。いつ、私が土屋先輩の彼女になったんだ?
元彼のほうは、「うそだろ?松尾に彼氏かよ・・・」と彼女を連れて、いつのまにかいなくなっていた。おい、私にそんなに彼氏がいてショックなのか、失礼な。
「ありがとうございました、土屋先輩」
「なーんか、チャラい男だったね。」
「以前は、爽やか男子だったんですけどね。久しぶりに見ましたけど、変わったなあ」
「恵ちゃんの元彼?」
「そうです。高校が別々になったときに向こうに好きな女の子ができて、二股かけられまして。
私から振ってやりました」
「二股?そりゃあ許せないな」
「ふふ。許せないですよね。私、元彼の別れ間際のセリフを思い出しちゃいました。あの人は、泰斗に行ってる私に引け目を感じて、浮気をしたと言ったんですよ。訳分かりませんよ。」
「バカな男だね。恵ちゃんと別れるなんてさ」
「うーん、私結構ずけずけ言いますからね~、彼にはきつかったんでしょう」
「俺なら、恵ちゃんの口の悪さはOKなんだけどな」
「何言ってるんですか、土屋先輩」
「いや、まじで。」
「へ」
「松尾恵さん。俺とつきあってくれませんか?」
「は」
土屋先輩は、めったに見せない真面目な顔をして私を見つめる。
「俺が恵ちゃんのこと好きなの、ぜんぜん気づいてなかったでしょう」
「はい」
「あっさり言うなあ・・・。恵ちゃんらしいね。」
「はあ」
「話しやすい先輩っていうポジションは確保したけど、それ以上はどうしたらいいかって考えてたら、さっきの出来事に遭遇してさ。これはチャンスと思ったわけ」笑顔で話す土屋先輩。
チャンスって、何のチャンスだ。私の疑問が顔に出ていたのか、土屋先輩はニヤリとした。
「既成事実を作るチャンス。だって、さっきの俺の発言、聞こえちゃった人もいるだろうしさ。恵ちゃんの性格から、この場で彼氏じゃありませんって言えないだろ?ほら、うちの学校の生徒がまだこの辺にいる時間帯だしね。」
はっ!!ここは駅・・・そして、周囲には部活帰りの泰斗の生徒・・・・そして、土屋先輩は有名人。
私たちは、至近距離でお互いに顔を見ている。これを周囲が「見つめあってる」なんて解釈したら・・・・・えーっ。こんなのありかよっ!!
先輩の事は嫌いじゃないけど、このやり口は卑怯だと思う。
「・・・先輩のやりかたは、卑怯です」
「そうだね。俺って卑怯な男なのよ、ほんとは。だって、恵ちゃんを離すのがいやなんだもん」
「私は先輩が離したくないと思うような、たいそうな人間じゃないです」
「俺にとっては、たいそうな人間だよ。恵ちゃんはかわいい」
「土屋先輩・・・そういうことをサラっというの止めて下さい」
「そういうことって?」この人・・・絶対知ってて、とぼけてる。
「う・・・か、かわいいとか・・・。恥ずかしいです」
「じゃあ、慣れて。」
「は?」
「俺、これから恵ちゃんに、たーくさん、そういうこと言うから。慣れようね?」
「・・・・私の気持ちは無視ですか。」
「え?だって、恵ちゃん俺のこと嫌いじゃないよね。ということは、これから口説き落とせばいいだけじゃん。」
なんだろう、土屋先輩の強気な自信・・・・いったいどこから沸いて出るんだ。
そして私は“この人に口説き落とされても・・・まあ、いいか”と、既に先輩の術中にはまっていた。
読了ありがとうございました。
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土屋先輩・・・おもしろキャラにするはずが、どうしてこんなキャラになったのか?
次回は閑話で早川くんのちょっと違う一面の話です。
今さらですが、第6章でちらっと出てきた件の決着編になります。