第11章:松尾 恵の篭絡-1
恵と無自覚のタラシ。の巻
私が土屋先輩と知り合ったのは昨年の夏だ。
同じ図書委員の岡崎涼乃と私は、図書館の返却本を棚に戻す作業をしていた。たまたま手に取った本が重くて、私は思わずよろけてしまった。
「めぐちゃん!!」涼乃が手を差し出そうとしたときに、私を後ろから助けてくれたのが土屋先輩だった。
「大丈夫?」後ろから声をかけられ、私はあわてて声のほうを向いて「どうも、すみませんでした!」と平謝り。
土屋先輩は笑って「この本を棚に戻すの?・・・・結構重いね。俺が戻してあげるよ」と本まで戻してくれたのだ。
まさに、そのときの先輩は「少女マンガに出てくる主人公憧れの男子」みたいだった・・・・
そして現在。土屋先輩に対する私の評価は、今では「無自覚のタラシ」と大幅に変化した。
先輩は、土屋 信康という戦国武将みたいな名前だけど、重厚さのカケラもない。
同級生の早川くんが「女子同士の揉め事の裏に早川あり」と言われているけど、土屋先輩も似たようなものだ。ただ、二人の違う点は、早川くんは本人の知らないところで女子たちが勝手に彼を巡ってもめていることがほとんどで、土屋先輩の場合は、本人いわく“誰にでも優しくしてしまうおまえの態度が女の子の誤解を招き、揉め事が起こるんだ”って、平田先輩に言われたらしい。
「“タラシ”と言われるのは心外だなあ。好きな子に誤解されちゃうじゃないか~。ねえ?恵ちゃん」
本の返却ワゴンを押している私のそばにきて、先輩は話し続ける。
「誤解されるような行動を慎めばいいだけなんじゃないですか、土屋先輩」
「も~、相変わらず辛らつだねえ。恵ちゃんは」
土屋先輩は、生徒会長の平田先輩と仲がよくて科学部の部長だ。図書室の常連でもあったことから、自然とカウンターにいるときに言葉を交わすようになった。いつのまにか、先輩に「松尾さん」から「恵ちゃん」と呼ばれるようになっていて、私も気軽に話せる先輩として認識するようになった。
「で、今日は何を探しに来たんですか?」
「うう・・冷たい扱いだなあ。ちょっと橋野先生に頼まれて、化学関係の資料を探しにきたんだ。ところで、どう?これマイ白衣なんだ~。俺って白衣が似合うと思わない?」と私に白衣を見せる先輩。
「先輩、私、白衣はそんなにツボじゃないです」
「えーっ。図書委員は白衣好きって聞いたのに~。だから恵ちゃんに見せにきたのに~」
「・・・誰ですか、そんなこといったの」確かに、同じ図書委員の涼乃は白衣好きだけどさ。
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第11章は涼乃と同級生の図書委員、松尾恵視点です。