-5.武内 聡太の思惑
聡太兄ちゃんは考えたの巻。
苑子から駿介と同じ電車に乗って帰ってきたと聞いたとき、俺は内心の驚きを隠すために部屋に戻った。
内藤といえば、俺が専心館の剣道部にいた頃から「愛想のない男」で、俺らが女の話で盛り上がっても我関せずスルー。通学途中に逆ナンパに遭遇しても相手の女の子を冷たく断ったとか、チョコをもらってもその場で返したとか・・・・要するに女の子に冷たい男だという評価だったんだけど・・・どうして苑子と一緒に帰る気になったんだろう?
苑子は内藤が気になってるのが丸わかりだけど、内藤のほうは・・・慣れると話やすいやつだが、あいつの思考だけは昔から読めん。
ただ、駅でばったり会ったときに、内藤は苑子に「はじめまして」って挨拶してたけど、あれは嘘だ。
なぜなら、苑子は覚えてないかもしれないけど、二人は会っている。
昨年の夏休み、伊織兄(兄も専心館OBだ)が苑子の受験勉強を見るために帰省してきた。そのとき、伊織兄に頼んで剣道部で練習中の俺のところに苑子を連れてきてもらうことにした。
苑子は最初、「え~、なんで男子校に行かなきゃいけないの?」と渋っていたが、俺と伊織兄が「泰斗は共学なんだから、男子に多少馴染まないとだめだぞ」と説得したのだ。
もっとも、苑子一人で来させるつもりは全然なく伊織兄がついてくることは最初から決めていた。
「俺、苑子特製のママレード入りのスコーンが食べたいから、よろしくな。」受験があるからと、苑子は趣味のお菓子作りも自粛していた。趣味はストレス解消になるんじゃないかという俺の配慮だ。
俺の配慮もしらずに苑子は「えー、そうくんのわがまま~。」と口をとがらせていたが・・・。
そのとき、部長だった俺と一緒に苑子からの差し入れを受け取ったのが、当時副部長だった内藤。苑子の顔を見て御礼を言っていたし、人の顔を覚えるのが確か得意だ。たぶん、苑子を見たときに「あっ」と思ったはずだ。
苑子のほうは・・・・あれは、今より輪をかけて同年代の男が苦手だったからなあ・・・おまけに人見知りときてる。間違いなく、覚えてないだろう。
「妹と一緒の電車だったんだって?」なんて電話するのも変だし、といって苑子が泣くようなことになったら、俺が内藤を稽古にかこつけて、ぼっこぼこにしてしまうかもしれない。
でも、二人の反応を見てみたい。「ここは、兄ちゃんが妹にお節介をしてみるか・・・」ちょうど、内藤は俺に相談事があるらしくて、一度会う予定になっている。会う場所を家にすればいい。
苑子には菓子を手作りしておくように前もって頼んでおけば、ぶうぶう言いつつも喜んで作ってくれるはずだ。
俺は、早速内藤に電話をかけることにした。
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-4のラストで、どうして聡太は変だったのか?というのを書いておこうと思いました。
第11章は違う図書委員の話になります。