-3
苑子、盆と正月の巻。
聡太お兄ちゃんに紹介されてから、私と内藤さんは電車内で顔を合わせると会釈をするようになった。
私のなかではすごい進歩で、毎日がそれだけで楽しくなった。季節はいつの間にか夏休みが近くなってきていた。
幼稚園の頃からの親友で、高校でも同じクラスになった遠山 樹理ちゃんは、あまりに進展の遅すぎる私がもどかしいらしい。
「オクテの苑ちゃんが、男の子と会釈をするだけで、すごい進歩だとは思うの。でもね、そろそろ話しかけてみたほうがいいって!」
「会話?ムリムリムリ!!何話したらいいのか、わかんないよ」いまだに男の子と話をするだけで内心ビビり気味の私が、内藤さんと会話なんて、想像がつかない。
この日は、注文した本を受け取る予定があったので、学校の最寄り駅前にある大きな本屋に立ち寄った。本を購入し、ついでに中を見て回る。海外文学、日本文学、雑誌、コミックス・・・・と一通り巡ったところで私は大学受験問題集のそばを通りかかった。
そこに、内藤さんがいた。1冊ずつ手に取り、丹念に吟味している。
内藤さんは受験生なのだ、と改めて実感した。もしかしたら、今年が近づける最後のチャンスなのかもしれない・・・でも、真剣なときに話しかけるのって邪魔してるみたいで気が引ける。
私は、自分も問題集を探そうと思い立って、内藤さんのいるあたりに歩いていった。
あわよくば、視界に入らないかな・・・と、不純な動機もあった。
そういえば、私、自分で問題集とか参考書って買ったことないや。いつも一番上の伊織お兄ちゃんか聡太お兄ちゃんが、「苑子に合いそうだから」と選んでくれたので勉強してた。
「問題集って、いっぱいあるんだなあ・・・」とぼそりとつぶやいたら、「どの科目を探してるんですか?」と隣から声をかけられた。ふと見ると、内藤さんがこちらを見ていた。
「こ、こんにちは。内藤さん。」
「どうも。武内さんも、問題集を見に来たんですか?」
「あ・・・えと。今日は注文した本を購入するために来たのですが、ついでに中をみていこうかなと思って・・・」
「そうですか。」
「あ、あの。内藤さんは、お目当ての問題集は見つかったのですか?」
内藤さんは、1冊の問題集を手に取っていた。
「めぼしいのが1冊ありました」
「そうですか」
「それでは、失礼します」内藤さんは軽く会釈をしてレジに向かって歩いていった。
「は、はい・・・」私は会釈をすることしかできなかった。
私も、内藤さんに少し遅れて、売り場を離れ出口に向かって歩いていく。
すると後ろから「武内さん」と呼び止められた。振り向くと、本屋の袋を持った内藤さんが立っている。しかも、すこし急いできたみたいだ。
「はい」
「他に用事がないなら、もう夕方ですし、一緒に駅まで行きますか?」
「は、はいっ。」
うれしーっ。盆と正月がいっぺんに来たってこういうことを言うんだわ。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
少しは進展したのかな・・・・