第10章:武内 苑子の初心-1
そのぽんの「幸せの素」の巻
第1章~第3章と同じくらいの時期です。
私には通学途中に「あの人」を見かけることができれば幸せな気分になれるというジンクスがある。
「あの人」というのは、毎朝7:45の電車で見かける男の人で、専心館高校の制服を着ている。ちなみに専心館高校というのは、泰斗高校と同じ沿線にある男子校で、県下でも有数の進学校だ。
その人を見たのは、入学してしばらくたって通勤通学ラッシュにも慣れた連休明けのこと。その日も混雑していて、私はカバンを前に抱えて踏ん張っていた。ところが、この日は運が悪かったとしか言いようがなかった。私の隣にいた人がふいによろけ、私に思いっきりのしかかってきたのだ。
私は身長が156cm。のしかかってきた人は、ふくよかな方・・・・ひえ~~~!!つぶされるっ!!いくら踏ん張ってもダメかもしれない・・・・通勤電車でつぶされるなんて・・・・・私は思わず目をつぶった。
ところが、私に隣の人はのしかかってこなかった。いつの間にか間に男の人が割り込んで、よろけた人を支えてくれていた。私はその男の人をおずおずと見上げた。専心館高校の制服である濃紺の学ランを着たキリッとした顔つきの人で、私をチラッと見ると、そのまま私の隣に立った。
結局、お礼も言えずに最寄り駅で降りてしまった。どうして「ありがとうございました」って言えなかったかなあ、私・・・。
その後、私が結局「あの人」のことで分かったのは、たまに持っている道具から剣道部ということだけだ。専心館高校の剣道部・・・・確か、うちの下のお兄ちゃん、専心館高校の剣道部OBだったよね・・・・名前とか、知ってるかなあ・・・・とはいえ、お兄ちゃんに聞くと、いろいろうるさいから嫌だな。
昔から私のそばには常に3つ上と6つ上の兄たちがいて、男の子ってこういうもんだってイメージが兄たちで確立していたけど、それが幼稚園に入って崩れ去った。同じクラスの男の子は、女の子に優しくないばかりか、逆に意地悪をしたりする。
私は「うちのおにいちゃんたちとちがう~」と軽くショックを受けた。
今思うと、兄たちと男の子を無意識に比べていたらしく、中学でも男の子と話すことは、ほとんど無かった。友達には「苑子の場合は比較対象のレベルが高すぎ。お兄さんたちみたいな男の人は普通いないよ」って言われるし。
これじゃいけないと思って男の子に少しでも馴染もうと、共学の泰斗を受験することを決めたら、両親は賛成したのに兄たちに反対された。でも両親の後押しと私の押し切りで兄たちを納得させ、私は無事に泰斗に進学することができたのだ。
結局兄たちのせいにしても、いまいち一歩が出ないのは勇気がない私のせい。今の私にとって恋愛っていうのは本の中だけで遭遇する出来事だから。
読了ありがとうございました。
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第10章は、武内 苑子視点です。
ブラコンかつオクテさんな彼女の恋愛話の予定です。
あんまり長くなる場合は、独立した長編にしようかなあ・・・。