第6章:岡崎 涼乃の心持-1
涼乃、モヤモヤするの巻
早川王子からの強引な提案「お互いに名前を呼ぼう」からずっと私は王子から「涼乃」と呼ばれ続けている。王子は、私が「早川くん」と呼んでも返事をせずに「圭吾くん」と呼ぶと返事をする。
制服が冬服から夏服へ変わる今、「涼乃・・・すっかり“早川くんが唯一名前で呼ぶ女子”認定されちゃったよね」と唯ちゃんが言うくらい、私はクラスで“早川くんの特別”扱いとなっている。
瑞穂先輩に至っては、「岡崎ちゃん、早川王子はクモで岡崎ちゃんは餌の蝶にしか見えないよ。わたし・・・」と肩をたたいてくれったっけ。
そんな古川先輩はいつの間にか生徒会長の平田先輩と付き合うようになり「付き合っているけど、幼馴染の頃と変わらない」と先輩は強調している。でも、先輩の当番の日には必ず会長が来て、終わるまで待って一緒に帰っていく様はラブラブカップルにしか見えない・・・と藤村さんプラス委員たちの間で見解が一致している。
前に「(俺のことを)よく分かるようになったら、考え直してくれる?」って告白を断ったら言われたけど、確かにあのときより、早川くんの人となりが分かってきたけど・・・だからといって、付き合うのとは違う気がするんだよなあ・・・・放課後当番で人がまばらなのをいいことに私はぼんやり考えていた。
と、そこに早川くんが現れた。といっても彼は一人じゃなくて女の子と一緒。
つやつやの茶髪をくるんと巻いて、女子高生に見えない大人っぽさ。足は長いし、すらりとしているし、顔もまつげはくるくる、唇はつやつやの美人さん。うーむ。私とえらい違いだ。
「涼乃先輩」と隣に居る1年の委員、武内 苑子ちゃん(あだな:そのぽん)が、声を潜めて話しかけてきた。
「どしたの、そのぽん」
「早川先輩の隣にいる、あの子同じクラスの桜井さんです。」
「へえー、桜井さんっていうんだ」
「彼女、早川先輩を狙ってるらしいんです。涼乃先輩のことも知ってて、絶対私のほうが早川先輩に似合うって言ってるのを偶然聞いてしまったんです。私、先輩に言ったほうがいいのか迷ってて・・・言えなくてすみません。」
「そのぽん、心配してくれてありがとね。でも、私と早川王子は恋人同士じゃないから。桜井さんも、そんなムキにならなくてもいいのに」
でも、なぜか心がモヤモヤする・・・。
私たちの声が聞こえたらしく藤村さんも「なになに?」と混ざってきた。
そのぽんが同じ説明をすると藤村さんも「ほ~自信家だねえ」と桜井さんのほうを見る。桜井さんは早川くんにずっと何か話しかけているようだ。
見たくないな。彼女じゃないくせに早川くんに「何やってんのよ」って怒ってしまいそうだ。
藤村さんは、私の様子をみて「岡崎。ちょっと書庫の整理してきてくれない?ここに目録あるからさ」と10枚程度の目録一覧を持ってきた。
「岡崎、とりあえず書庫に引っ込んでなさい」肩をたたかれ、私はうなずく。
「先輩。桜井さんとは偶然一緒になったかもしれませんしっ。カウンターは私だけでも今日は大丈夫ですからっ」
自分の発言で、私が落ち込んだと思っているそのぽんは、責任を感じているらしい。
「・・・書庫行って来まーす」私は周囲に声をかけて地下の書庫に下降りて行った。
書庫はひんやりしていて、本に適切な温度で年中保たれている。
実は私は図書委員のいろいろな作業のなかでも書庫の整理はトップ3に入るくらい好きだ。
私は早川くんのことを忘れて作業に没頭していった。
読了ありがとうございました。
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第6章は久々の涼乃視点です。