第5章:平田 孝一郎の進展-1
孝一郎、本格始動の巻
「おれはみずほとけっこんするーっ」
「えー、こういちろーはやだー。さくらぐみのひとしくんがいー」
・・・・・なんで、幼稚園の頃の夢なんかみるんだ・・・・・・
俺は、平田 孝一郎。隣の家には幼馴染の古川 瑞穂が住んでいる。瑞穂と初めて会ったのは、俺たちが4歳のときに遡る。俺の家の隣に古川さん一家が引っ越してきて、まず母親同士が意気投合して付き合いが始まったんだ。
古川さん夫妻は共働きで、瑞穂は一人っ子。俺の家は父親が勤務医で、母親は専業主婦で子供は俺と弟。母親は幼稚園へのお迎えなども「一人も二人も一緒よ。瑞穂ちゃんは、ばっちり預かるから!!」と遠慮する古川さん夫妻を説得して瑞穂を預かったんだ。
女の子がほしかった母は、瑞穂をそりゃあ可愛がった。俺はというと、そういう境遇に別になんとも思わなかった。俺も、瑞穂が可愛かったのだ。ただし、俺の愛情表現は瑞穂の手のひらににカエルを乗せたり、靴に水をいれたり・・・とかなり歪んでいたが。
それで、夢で見たあの頃の思い出につながるわけだ。
今も、母は相変わらず瑞穂を可愛がっている。
「できれば孝一郎と結婚して、近所に住んでくれるとうれしいんだけどー」
「孝一郎君は優秀だから、うちの瑞穂じゃ物足りないんじゃない?あの子、ちょっとのんきだから」
「瑞穂ちゃんみたいな優しい子は孝一郎みたいな息子にもったいないわよ。瑞穂ちゃん、お嫁に来てくれないかしらね~」
「たしかに孝一郎君なら瑞穂を安心して託すことができるんだけどね~」
両家の母親が楽しげにお茶を飲んで会話しているのが聞こえる。2階にいる俺に丸聞こえということは、どんだけ声でかいんだ。
失恋して泣いてるあいつに俺の長年の思いを告白したのが2週間前。それから瑞穂は俺を避けている。まったく・・・・。
ピンポーン。俺の家のインターホンがなった。
しばらくすると、母親の声で「あら、瑞穂ちゃん。孝一郎なら2階よ。あがってあがって」
「いえ・・・母を呼びにきただけです。」
「あらー、孝一郎に用事じゃないの。残念」
「えっと・・・」俺は瑞穂の声がしてるうちに1階へ降りていった。
「瑞穂」
声をかけられぎょっとした瑞穂。なんだか挙動不審だぞ・・・おまえ。
「あ、孝一郎いたんだ」
「いるさ。家で受験勉強だからな。瑞穂、勉強進んでるか?」
「う・・・うん。なんとか」
「息抜きでも行くか?」
「息抜き?」
「そう、これから外に出かけないか。お前何分でしたくできる?」
「えーっ!何それっ。私、お母さん呼びにきただけなのにー」
「つべこべ言うな。何分で準備できる?」
「・・・・15分」
「よし。15分後に迎えにいくから、準備しに帰れ」
「・・・・・う~~~、分かったよ。じゃあね」押し切られた瑞穂は納得できない顔で戻っていった。
いつのまにか、母親が姿を消している。古川のおばさんの声もしない。普通に茶のみ話をしてくれよ。
俺が2階に上がる前に母親たちから声がかかった。
「デート?あんまり遅くなっちゃだめよ。あんたたち受験生なんだから」
「孝一郎君、瑞穂はあなたと比べて子供なの。その辺、よーく考えてね?」
・・・・・・この人たちの中で、俺はいったいどういう風に認識されているんだろうか。
ともかく、瑞穂を外に連れ出して、避けてる理由を何としても聞き出してやる。
読了ありがとうございました。
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「第3章:古川 瑞穂の再起」のその後になります。
孝一郎視点で書いてみました。
瑞穂に対しては少し(?)強引な孝一郎です。