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王子、若干のステップアップに成功の巻
勧められた本は面白くて俺は結局読みきれなかったので本を借りることにした。
「面白かったみたいだね。勧めてよかったよ。・・・で、コピーをつけてもいい?」とキラキラした目で聞く岡崎さん。
「・・・いいよ」
「藤村さん、早川くんのOKでましたよ。」
すると、司書の人もやってきて「ほんとにー?よくやった岡崎。早川くん、“早川くんも一気読み”ってコピーで展示するから、了承してね♪」
図書室の閉館を待って、俺と岡崎さんは一緒に正門を出た。話をしていくうちに、二人とも最寄り駅が同じということが分かった。どうやら、俺は朝練で登校時間が早いため彼女と電車で会うことがなかったようだ。
「俺と最寄駅が一緒だね。家は駅からどのくらい?」
「徒歩5分だよ。駅前にマンションができたでしょう。あそこなの」
それは、俺の家のある出口の反対側出口付近に建ったばかりの高層マンションのことだろうか。
「あの、駅前の高層マンション?」
「そうだよ。早川くんの家は駅からどのくらいあるの?」
「俺の家は、マンションと反対側の出口から歩いて10分くらいかな。」
「へ~。反対方向なんだね。」
ここで話が途切れる。俺はまだ岡崎さんと話がしたいので話題を考えてるけど、彼女はぼんやりと外を見ている。
「あのさ、来年、理系クラスと文系クラスに分かれるけど、早川さんはどっちを選択する予定?」
いきなりの話題に、岡崎さんはいささか驚いたものの別に変と思わなかったようで、「文系かなあ。理系科目がちょっと苦手なんだよね。どうして数学や物理の問題を理系の人はあんなにすらすら解けるのかなあ。早川くんはどっちを選択するの?」
「理系クラスを希望してる。数学とか物理とか結構好きだし。」
「じゃあ、来年はクラスが別なんだね。」と岡崎さん。
岡崎さん・・・どうして来年はクラスが別とわかって「ちょっとほっとした感」を漂わしてるのかなあ。
たぶん、岡崎さんの思い描くような感じにはならないと思うよ。前も伝えたけど、俺、あきらめ悪いから。
岡崎さんと話をしているうちに、最寄り駅に到着した。
「なんか、早川くんの印象変わったよ。早川くんは外見が華やかだから、性格もそうなのかなって思ってたけど、とても真面目なんだね。ごめんね、今までちゃらい人だと思ってたよ。」
岡崎さんは、悪いと思ったらちゃんと素直に謝罪できる女の子だ。やっぱり俺、岡崎さん、すきだなぁ。偏見もたれてたのはショックだけど。
「誤解が解けてよかったよ。ところでさ、俺も涼乃って呼ぶから今度から俺のこと圭吾って呼んでくれない?川田さんレベルの友達として」
「ええっ。それはいきなりハードル高いっすよ・・・・」と怖気づく岡崎さん。
「真面目な話もできる友達になれると思うよ、俺たち。」
「う・・・・・せめて圭吾くんにハードル下げてもらえないですかね。」
圭吾くん・・・それでもいいか。好きな子から呼ばれる自分の名前が、こんなに甘い響きだとは。
「じゃあ、今から圭吾くんで、よろしくね。涼乃」
「ひ~・・・はや・・・けいご、くん・・・じゃ、じゃあ私、出口こっちだから。じゃあね、また明日」
「じゃあね、涼乃。また明日」
俺は鼻歌を歌いたい気分で、家まで走って帰った。
どうやらマイペースな彼女に合わせて、長期計画で押していったほうがよさそうな気がする。
こんな感じで徐々に距離を縮めていけたらいいな・・・俺は改めて決意したのだった。
読了ありがとうございました。
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早川王子と涼乃の距離が少し近づいてきました。