友情
滅びた都市の闘技場。三人の冒険者がオーガと戦っている。
オーガの巨大な棍棒がファイターに振り下ろされる。
ファイターは盾で受け流す。棍棒が地面を打ち、轟音とともに大地が揺れる。
オーガの態勢が崩れている。
「隙あり!」
シーフが足首にナイフを刺した。
「とどめ!」
メイジの雷魔法がオーガを感電させた。
「よっしゃ!」
三人はオーガを倒した。
「俺たちの手にかかればこんなもんよ」
「ざまあみやがれってんだ」
「油断は禁物ですよ」
三人はオーガが守っていた部屋の奥に進む。
そこには大きな宝箱があった。
「おたから、おたからっと」
シーフが罠がないか入念に調べる。
「中身はなんだろうな?」
「これだけの大きさです。なにか調度品や家具かもしれません」
「そうなると三人じゃ運べないな」
「タンクがいれば」
「よせ。あいつの話はするな」
ファイターは嫌そうな顔をする。
と、シーフが解錠し、宝箱が開く。
「なんだこれ、空っぽじゃねえか!」
「待ってください。底にスイッチがありますよ」
「よし。シーフ、押せ」
「バカ野郎。罠だったらどうするんだ。一番HPの高いファイターが押せよ」
「こんなときタンクがいれば」
「よせ。あいつのことは忘れろ」
ファイターがさっきより強く言う。
バツが悪いメイジは、
「わたしが押しますよ」
やれやれ、と宝箱の前に移動した。
「そんな離れなくても」
ファイターとシーフは宝箱から遠く離れたところで事態を見守っている。
「いいから、早く押せ」
「仕方ありませんね」
メイジがぽちっとスイッチを押す。
と、地響きとともに横の壁が崩れた。
「なんだこれは?」
見れば崩れた壁の奥に道がある。
三人は相談して、その道を進むことにした。
しばらく歩くと、王宮のような荘厳な建物にでた。
「これは……ダンジョン!」
「こんなのがあるなんて聞いてないぞ」
三人は顔を見合わせる。
「まさか未踏のダンジョンか?」
「もしそうなら、中には手つかずのお宝が……」
ファイターとメイジはゴクリ唾をのみこむ。
と、シーフがコホンと咳払いする。
「こういうときは一旦ギルドに戻って報告する決まりだろ?」
「それはそうだけど」
シーフは止めるが、ファイターとメイジは未練たらたらである。
「ちょっとだけ中をのぞいてみないか?」
「ダメだって。危険なモンスターがいたらどうするんだ」
「未発見かどうかだけでも確認しません?」
「ギルドに調べてもらえばわかるだろ」
「こんなときタンクがいれば……」
「だからやめろって言ってるだろ!」
ファイターが声を荒らげ、場がシーンとする。
「すまない」
「こちらこそ、すみません」
「まあまあふたりとも落ち着けって。いまはダンジョンだろ?」
三人はどうするかじゃんけんで決めることにした。
「よっしゃ!」
シーフが勝ち、撤退が決まる。
来た道を戻り、オーガを倒した辺りで、
「あいたたた……」
「どうした?」
「お腹の調子が」
突然、シーフが腹を押さえてうずくまった。
「すまん。トイレだ。ふたりは先に行ってくれ」
「いやいや、ひとりになるのはまずい。待っているからあっちでしてこい」
ファイターが宝箱のあった辺りを指差す、
「いや、丸見えじゃん」
「いまさらなに恥ずかしがってんだ」
「いいから、お前ら先いけって」
頑ななシーフに、ファイターとメイジは冷たい視線を送る。
「まさかお前。抜け駆けする気じゃないよな?」
「ま、まさか。ハハッ」
シーフは誤魔化すように笑う。
「そういうのはなしだって決めたよな?」
「バカ野郎。俺が抜け駆けなんかするかよ。ほんと傷つくわ」
シーフは帰り道を指し、
「あ、コボルト!」
ふたりが振り返った瞬間を見計らって、走り出した。
「待て、この野郎!」
ふたりは急いで後を追う。が追いつけず、シーフは発見したダンジョンに入っていった。
「さすがに、素早さでは、シーフに勝てないか」
「はあ、はあ……。どうします?」
ファイターとメイジは顔を見合わせる。
「俺たちも行くしかないよな」
「ええ。仲間を放ってはおけませんからね」
ふたりはダンジョンの入口、王宮の扉をくぐる。
「これは……!?」
目が眩むような黄金の輝き。
美しい金細工で彩られた調度品が並ぶ回廊。
壁にはいかにも高そうな武器や絵画がかけられている。
「これはルーンの剣!?」
「こっちには月の杖がありますよ!」
いずれも一級品の装備である。
一介の冒険者では一生手にできないであろう品に、ふたりの目の色が変わる。
「間違いない。人跡未踏のダンジョンだ。それもかなり上等な」
「入口でこの分なら、奥は……」
回廊から庭が見える。その奥には本殿とおぼしき建物がある。
ふたりは吸い込まれるように歩き出した。
「金、金……」
庭に出て、中ほどまで進んだところで、
「わあーーーーーー」
正面からシーフが走って来た。
「どうした?」
シーフはスケルトンの大群に追われている。
「かかったな。ハイド!」
と、シーフはスキルを使い姿を隠した。目標を失った群れはそのままふたりに襲い掛かる。
「クソッ、モンスタートレインか!」
「また古典的な手を……」
「俺たちのスキルじゃ逃げられない。戦うぞ」
激闘の末、ふたりはスケルトンを倒した。
「あの野郎。本気で俺たちを潰すつもりだ」
「これは負けられませんね」
ふたりはふたたび中庭へ。と、
「止まってください」
メイジがしゃがみ、茂みを指す。
「どうした?」
「糸が張ってあります」
糸の先には鳴子が仕掛けられている。
「これはシーフの……」
「音を鳴らせばモンスターが寄ってくるかもしれません」
「姑息な真似を」
ふたりは慎重に進んでいく。
幾度もの罠を越え、最奥にある厳かな宮殿にたどり着いた。
「時間がかかったな」
「仕方ありません。安全第一ですから」
「さて、開けるか」
「はい!」
大きな扉を押し開けると、
「あれは巨人族!」
中で筋骨隆々とした巨人とシーフが対峙している。
「バカな奴だ。シーフがひとりで巨人に勝てるもんか!」
「いや、あれを見てください!」
メイジがシーフの足元を指す。そこには巻物が置かれていた。
「あれは聖地の巻物。あの上にいる限り巨人は直接攻撃してきません!」
「あの野郎、あんな高価なアイテム持ってたのか!」
シーフは巻物の上からナイフでチクチク巨人の脛を刺している。
巨人は涙を流して痛がっているが、どうしたらいいのかわからずその場で立ち尽くしている。
「このままシーフにボスを倒されたら、お宝の権利は完全にシーフのものに……」
「しかし横殴りはご法度だ」
「わたしに考えがあります」
そう言うと、メイジは魔法を唱え、
「ハリト!」
火の玉を飛ばし、シーフの巻物を燃やしてしまった。
「なにしやがる!」
シーフが気をとられた一瞬、
「へぶっ!!」
巨人の鉄拳が腹にめりこみ、壁まで転がって気を失った。
「ざまあみやがれ!!」
ファイターとメイジはハイタッチする。
「巻物を燃やしただけなら問題ないな」
「ええ。後でその分は弁償しましょう」
「よしっ。巨人はもう弱ってる。一気に叩くぞ!!」
ふたりは脛に傷を持つ巨人を難なく仕留めた。
「さて、それじゃあお宝をいただくとするか!」
巨人の守る宮殿を探索し、ふたりは宝物庫と記された部屋を発見した。
「いよいよだな」
ファイターが扉に手をかけた。
と、その肩をメイジがとんとん叩く。
「どうした?」
「カティノ!」
「き、きさま……」
ファイターはメイジの魔法で眠らされてしまった。
「ふふふ。これで宝は私のもの……」
メイジは扉を開ける。
しかし部屋は空だった。
「宝はどこでしょう?」
奥の壁に張り紙がある。
『お宝はいただいていくぜ! タンク』
メイジは真顔でファイターを叩き起こし、シーフを担いで帰還した。




