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詐術

 地方のとある王国。その王宮の地下深く、薄暗い宝物庫で王様がため息をついた。


「このままではまずいのじゃ」


 先代のころはあふれんばかりの金銀財宝で満ちていたのに、いまやがらんどうになっている。

 大臣も心配そうな顔をする。


「王様……」

「わかっておる」


 原因はあきらかで、十年前からおこなっている勇者創生出立支援ヒーロープロデュース事業である。

 旅に出る若者に一律の出立金を出すというもので、近隣諸国に先んじて勇者を輩出しようと始めた王様肝いりの事業である。

 この出立金を目当てに国中の若者が事業に参加し、国を出ていった。

 その結果、国庫は底を突き、国には老人ばかりが残った。


「わかっておるが、それでも平和のため、勇者の誕生は人類の悲願なのじゃ」

「国が傾いては元も子もありません。この上は一刻も早い事業の停止を、お願い申し上げます」


 大臣は王様に頭を下げる。

 しかし王様は首を横に振る。


「いまさら事業を中止しても、出ていった若者もお金も戻りはしないのじゃ。それに明日生まれるかもしれない勇者が、貧困のためにその機会チャンスを失うなどあってはならぬ」

「でしたら、せめて外部から専門家をお招きください」

「専門家?」


 王様は大臣に問う。


「はい。冒険者の中には”こんさる”なる職業の者がおり、組織の運営を支援する専門家という触れ込みにございます」

「そはまことか」

「試しにめぼしいものを招聘して、意見を求めてはいかがでしょうか」

「うむ。よきにはからうのじゃ」


 大臣は役所を通し、冒険者ギルドに依頼を出した。

 その翌日。


「王様。先日話した”こんさる”がやって参りました」

「早いのう」


 王宮にある謁見の間。

 礼服を着た冒険者が訪ねる。


「くるしゅうない。おもてをあげよ」

「はっ」


 整えられた髪。切れ長の目。自信ありげに微笑む口元。

 所作に気品がみてとれる。が、どこか軽薄な感じもする。


「私はクレイ・エドワード・マンキンゼーと申します。クレイとお呼びください」

「よく参ったクレイ。用向きについては聞いておるな? きたんのない意見を求めるぞ」

「では早速、私の王国再建策をご覧じましょう」


 クレイは立ち上がって、かばんから巻物を取りだして広げる。


「まずは資金マネー。さまざまな施策アクションを実行するには潤沢な資金マネー確保ゲットする必要があります。そのために歳出コストを切り詰めましょう」

「具体的には?」

「この国は人件費の割合パーセンテージが高すぎます。文官、近侍、学者、生産能力のない彼ら(ゴミ)放逐パージし、地方で第一次産業に従事アテンドさせましょう。これを”下方リストラ”と申します」

彼ら(ゴミ)?」

「失礼。人間の誤りです」


 王様はクレイの話に聴き入る。


「それでは王国運営にさしさわるのではないか」


 一方で現場を預かる大臣は眉をひそめた。しかしクレイは動じない。


「あくまで非常事態エマージェンシーに対処するための一時的なプランです。それと兵に田畑を耕させるよう命じてください」

「それでは国防がおろそかになろう!」

「ここ百年、戦争インシデントは起きていません。これは外交努力によるものです。また、国境にはびこる魔物もそのほとんどが冒険者(クソ共)により対処フィックスされています。少し兵の数を減らしたとて、さしたる問題はありません」

冒険者(クソ共)?」

「失礼。冒険者です」


 大臣はなにやら言いたい様子だが、言葉が出ない。

 クレイは続けて言う。


「国防費を削り、浮いた予算で農業や工業を振興インプルーブしましょう。国の根幹をなす麦の栽培を促進し、工芸品を輸出して収入を増やすのです。これぞ”大躍〇政策”」

「そんなにうまくいくかの?」

「この国では麦を年に一度収穫していますが、種をまく時期を一か月早めることで収穫を夏に早め、そこでまた種をまけば秋にも収穫できます」

「寒冷なこの地では苗の成育に問題が生じるのではないか?」


 すかさず大臣が問う。


「問題ありません。それどころか一度水にさらしたあと寒冷な時期に植えられた麦は、通常の麦よりも開花が早まったという研究結果エビデンスがあります」

「そうなのか」


 堂々とするクレイを王様は頼もしく思い始めた。


「では工芸品はどうやって増産するのじゃ?」

「簡単なことです。屯田に出た兵士の剣や鎧を溶かして製造に利用(リサイクル)するのです」

「さすがにそれはどうかのう」

資源リソースは有効に活用しなければなりません。お金が貯まればまた作ればよいのです」


 以上、とクレイは説明を終えた。

 王様と大臣は顔を見合わせる。


「ご不安なのはわかります。まずは一部で試してはみてはいかがでしょうか」

「むう、そうじゃのう」


 ふたりはクレイの指示に従った。

 すると二期作で収穫は倍増し、工芸品の輸出で国庫が潤った。


「いかがでしょう」

「うむ。素晴らしい成果アウトプットじゃ。この手法スキーム全土に広げ(ローンチし)よう!」


 王様はクレイに全幅の信頼を寄せ、その献策を積極的に用いるようになった。

 それから数年後。連作によって土地が痩せてしまい、収穫量が目減りする。

 また工芸品の輸出も、貿易摩擦が生じて立ち行かなくなった。


「なんということじゃ……」


 王様は王宮のバルコニーから街を見下ろす。

 飢えで苦しむ子。盗みを働くもの。国民は貧困にあえいでいる。


「王様!」


 大臣が息を切らして走ってきた。


「魔物の大軍があらわれ、地方領主の土地を襲っています!」

「急ぎ軍を向かわせるのじゃ!」

「それが、屯田にでているため呼び戻すのに時間がかかります。あと武器や防具が足りません!」


 二人は顔をひきつらせた。

 いつの間にかクレイはいなくなっている。

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