偽悪
とある王国の地下。円卓に不気味なローブ姿の者らが集う。
「もっと、もっとだ。人の罪をあがなうにはこの程度の血では足りぬ!」
「主よ。どうか罪深き我らに罰をお与えください」
「次なる悪魔はいずこか? 急がねば。祝福の日は近いぞ」
彼らはなにか書かれた紙を手に話し込んでいる。
と、そこにこれまたローブ姿の者が駆け込んできた。
「ジョセフの森を穢せし、アハトが死んだぞ!」
一同、「おおっ」と声をあげた。
「でかしたぞ」
「ようやくか」
あるものは胸をなでおろし、あるものは円卓を拳で叩く。
興奮はしばらく続いた。
「……して、どのような最期であった?」
「落馬」
どっと笑いが起きる。
「騎士が落馬とは!」
「相応しかろう、相応しかろう」
あるものは神に祈りを捧げ、あるものは笑いのあまり涙した。
異様な空気が満ちる。
「して、下手人は誰であろうか?」
「この洒落っ気は【沼地の魔女】ではないか」
「いや、【西の森の愚者】かもしれぬ」
ローブ姿の者らはうなり、考え込む。
「誰でも良いことだ!」
焦れたひとりが言う。
「我らは一心同体。名にはこだわらぬ。違うか?」
「いかにも」「そのとおりだ」
皆、うなずく。
「一刻も早く世に知らしめよう。我らの悪行を!」
集団は闇にその姿を消す。
王国の広場。偉大な国王像の足元に人だかりができている。
彼らは一枚の張り紙に夢中になっていた。
「また暗殺者ギルドか」
「げっ、今度はあの騎士かよ」
「百年戦争の生き残りだぞ。ありえねえ」
恐怖する人々の後ろで若い冒険者が背伸びしている。
「なにがあったんですか?」
遠くて読めない冒険者は隣の男に尋ねた。
「殺しさ。また暗殺者ギルドがでたんだ」
「暗殺者ギルド?」
「兄ちゃん。知らないのかい?」
男が言うと、人々が一斉に振り返る。
「この街に潜む掃除屋さ」
「悪党を成敗して回っているんだ」
「でも、誰もその正体を知らない」
「国も躍起になって探してるが、いまだ何の手がかりも掴めてないらしい」
人々は口々にまくしたてる。
冒険者は気圧され、距離をとった。
「本当だとしたら怖いですね」
と言う冒険者を人々は笑う。
「大丈夫だよ。真っ当に生きてれば狙われない」
「そうなんですか?」
「ああ。善人が襲われた試しはないからな」
「いままでどんな人が犠牲に?」
「病人相手に治療費をぼったくっていた医者とか」
「えっ?!」
冒険者は目を丸くする。
「それって旧市街の三番地で病院をやってる、あのがめついおじいちゃんですか?」
「知ってたか」
「新聞に出てましたよ。たしか流行り病を患ったとか」
「表向きはな。しかし、実のところは毒殺されたんだよ」
「そうだったんですね」
冒険者は腑に落ちない様子で腕を組む。
「ほかには?」
「ほかには、新市街の付け髭の金貸しとか」
「それって先月の? たしかピザをのどに詰まらせたって聞きましたけど」
「おいおい。どうすればピザをのどに詰まらせるんだよ?」
広場に爆笑がおきる。
「あとはあの汚職役人とか。賄賂で家を建てたっていうふてえ野郎だ」
「そうそう。その自慢の家に火を放たれ、それでおっ死ぬんだから、まったく悪いことはできないねえ」
人々は暗殺者ギルドの話で持ちきりである。
「あの、それってなにか証拠があるんですか?」
「証拠って、犯人が自白してんだから間違いないだろう」
「それはそうですが」
冒険者はひとり首をかしげた。




