処世術
町外れの森に立つ魔術師の塔。
五人の冒険者がコボルトたちと戦っている。
「どうした! こんなもんか!?」
鎧を着込んだ男が、コボルトの短剣を弾き返す。
「喰らえ! 二段斬り!!」
すかさず大剣を持つ男が斬った。
コボルトはバタッと倒れる。と、
「危ない!」
別のコボルトが矢を放ち、大剣の男をかすめた。
「ちっ、しくじった」
「ほら、下がって。ヒーリング!」
神官の女が魔法で傷を癒やす。
「バーカ」
替えて魔法使いの女が前に出て、
「ファイアーボール!」
弓を持つコボルトを攻撃した。
冒険者たちは連携してコボルトと戦っていき、残すは一匹。
「よし。お前の出番だ」
鎧の男に背を押され、あどけない少年がナイフを持って前にでた。
「俺が攻撃を弾くから、その隙に刺せ」
「はい!」
鎧の男はコボルトに肉薄し、攻撃を誘う。
闇雲に突き出されたコボルトの短剣を弾き、
「いまだ!」
「やぁ!」
少年がとどめを刺した。
戦闘終了。興奮冷めやらぬ少年に、
「えらいぞー」
魔法使いの女が抱きつき、頭をぐりぐり撫でまわす。
少年は気恥ずかしそうに、
「皆さんのおかげです」
四人の仲間に頭を下げた。
「気にすんなって」
大剣の男が少年と肩を組む。
「そろそろ戦いにも慣れてきたか?」
「はい! なんとなく、ですが」
「それでいい。自信を持ちつつ、慢心せずにが基本だ」
「はい! ご指導ありがとうございます」
少年にまた頭を下げられ、大剣の男は照れくさそうに鼻をかいた。
「そうだ! お前もそろそろクラスチェンジする頃合いだろ。どのクラスにするか決めたか?」
「いえ、それがまだ。どれがいいのかわからなくて」
少年はもじもじする。
「やりたいクラスはないのか? 敵をぶった斬りたいとか、派手な魔法をぶっぱなしたいとか」
「それでしたら……」
少年は鎧の男を見上げる。
「僕も皆を守れるようなたくましい男になりたいです」
「あー。気持ちはわかるが、俺みたいなタンクはやめておけ」
鎧の男は困った様子で兜をペシッと叩く。
「生傷は絶えないし、鎧は重いわ、夏は蒸れるわで最悪だぞ」
「ホント。夏はアンタの後ろ歩きたくないもん」
魔法使いの女がケラケラ笑う。
「ま、アンタみたいな体格じゃ、こんな重装備できないでしょ」
「ううっ」
少年はしゅんとする。しかしすぐに顔をあげ、
「でしたら魔法がいいです! いつもかっこいいなって……」
魔法使いの女を見た。
憧れの眼差しに女はふんっと鼻を鳴らして、
「無理無理。アンタ勉強できないでしょ。頭悪いのに魔法は無理だって」
頬を赤くして照れた。
しかし、少年はそうとは気づかずにしょんぼりする。
「そんな言い方はなさらなくても。頑張ればなんだってできますよ!」
神官の女がよしよししてなぐさめる。
「いえ、おっしゃる通りです。僕はあんまり頭が良くないので」
「俺と一緒だな」
大剣の男がニヤリとする。
「俺が見るに、お前は体を動かすクラスが向いていると思うぞ」
「そうですか?」
少年はしばらく考えてから、
「でしたら、僕も剣で敵を次々に切り伏せる、強い男になりたいです!」
胸の前で両拳をにぎり、男を見上げる。
「俺と同じファイターってことか?」
「はい!」
「うーん」
男はなにやら考え込むと、
「ファイターも悪くはないが、それよりお前に向いているクラスがあるぞ!」
ピシッと少年を指さした。
「なんでしょう?」
「シーフだ!」
「シーフ……」
少年はうつむいてしまった。
シーフ。すなわち盗賊である。
「僕、あまりその、悪いことはしたくないなって」
「いやいや、シーフはすごいぞ」
大剣の男はちっちっと指をふる。
「不意打ちを見破ったり、罠を見抜いたり、戦闘ではいろんな道具を駆使して皆を支援しなきゃいけないからな。どのパーティにもかかせないクラスだ!」
「そうなんですか?」
「ああ、冒険者ギルドでパーティ募集の掲示板見たことあるか? シーフは募集が途切れた試しがない超人気職だ。モテモテだぞ!」
男の言葉に、少年は目を輝かせ、
「僕、シーフになります!」
そう決心した。
翌々日。町の入口で、少年を除く四人が談笑する。
「アンタがあのガキ拾ってきたときはどうしたものかと思ったけど」
「いやあ名案だったろ。題して、シーフがいないなら育てればいいじゃん作戦」
「ああ、お前にしてはめずらしく頭が回ったな」
「ちょっと悪い気はしますけどね」
四人はクスクス笑う。
シーフは引く手あまたのクラスだが、それは雑用が多い上に危険だからなり手がないためである。
「まあギブアンドテイクってやつだ。その代わりに俺らがレベル上げつきあってやってるじゃん」
「それはそうですけど」
四人は悪びれる様子もない。
しばらくして少年があらわれた。
「皆さん! お待たせしました」
「やっと来たか」
四人は会話を切り上げ、笑顔を作る。
が、少年の姿を見て愕然とした。
「お前、シーフになったんじゃねえの?」
少年は踊り子の恰好をしている。
「はい。そのつもりだったんですが、たまたま出会った踊り子のお姉さんに相談したら、踊り子はシーフよりモテるってオススメされて」
「バカ! モテるの意味が違うだろ!!」
大剣の男は頭を抱えてしまった。
「お前はアイドルにでもなりたいのか!? 冒険者になりたいんじゃなかったのかよ?!」
「僕も最初はどうかなって思ったんですけど、お姉さんは踊りも役に立つって。そうだ! 見ててください!!」
少年は胸の前で拳を作り、息を整えてから踊りだす。
つたない足運び。拍子の合わない振りつけ。はっきり言って下手、だが、
カチャカチャ……
鎧の男が身じろぎした。重い鎧を身にまとっていなければ一緒に踊り出したかもしれない。それほどに少年の踊りは楽しげである。
「うっ……」
大剣の男の心臓がドクンッと跳ねた。年端もいかない子が自分を応援してくれている。そのひたむきさに心を打たれた。
「これは……」
魔法使いの女はゴクリ喉を鳴らす。若い男の子がきわどい踊り子の衣装に身を包み、一生懸命に踊っている。その様に目を奪われた。
「ガンバレ……ガンバレ……」
神官の女はうわごとのようにつぶやいた。少年の真剣なまなざし、飛び散る汗。間違えても決してくじけない強い心を前に、応援せずにはいられなかった。
四人は息を呑んで少年の踊りを見守る。
いや四人だけではない。気づけば人だかりができている。
しばらくして、踊り終えた少年が、
「どうでしたか?」
はあはあ、と息をあらげながら尋ねた。
四人は顔を見合わせ、
「……これはこれで」
悪くない、と恥ずかしそうに目を逸らした。




