仕入れ
夕暮れの町。ひとりの冒険者が裏路地をとぼとぼ歩いている。
「腹減った……」
ぽつりつぶやくと腹が「ぐう~」と鳴る。
と、なにやら香ばしい、肉の焼ける匂いがする。
「なんだ?」
足は自然と匂いのする方へ。一軒の定食屋にたどり着いた。
真新しい暖簾をくぐると、
「いらっしゃい」
頭にハチマキを巻いた店主が迎えた。
店内は切り出した木材を繋ぎ合わせたカウンター席だけ。
客はほかに誰もいない。
「あの、やってますか?」
冒険者が訊ねると、大男は「ドンッ!」と水の入ったグラスをカウンターに置いた。
(座れってことか……?)
冒険者は恐る恐る席に着く。
(メニューは……)
壁にも、カウンター上にも、どこにもメニューがない。
「あの、メニューは……」
冒険者が訊ねても、店主は答えずに黙々とフライパンに向かう。
肉の焼けるいい音と匂い。しばらくして、
「あいよ」
ステーキののった皿が出てきた。
(俺、あんま金ないんだけど……)
冒険者は財布と相談するが、それ以上に「出された以上、食べるべきだ」とお腹に主張され、
(ええい、ままよ!)
フォークを手に、ひと切れゆっくり口にする。
「こ、これは……!!」
美味。舌で感じる確かな弾力。なのに噛むとホロホロ崩れ、肉汁があふれ出す。
冒険者はあっという間に一皿ペロリ平らげた。
(ああ、もうなくなってしまった)
皿に残る脂さえ愛おしい。と冒険者が皿を舐めまわしていたら、おかわりが置かれる。
「オヤジ……!」
店主は黙ってうなずく。
冒険者は心ゆくまで料理を堪能した。
「隠れた名店を見つけてしまったな」
味だけではない。価格もお手頃だった。
冒険者は満足して家に帰ると泥のように眠った。
翌朝。日の出とともに目が覚める。
いつもならまだ寝ている時間。なのにまるで眠気がない。
冒険者の五体には活力がみなぎっていた。
体からたちのぼる湯気が、大気に溶け、地球を満たしていく。
そう感じとった冒険者は、
「ふっ。今日は久しぶりに朝ダン(※朝、ダンジョンにいくこと)してみるか」
粗末なベッドから跳び起き、井戸で顔を洗い、早々に出かけた。
いつもは賑わう大通りも、この時間は空いている。
と、冒険者は足に違和感を覚えた。
「な、なんだこれは!?」
踏み出した足が、地面を突き抜けてしまうような、大地を壊してしまうような、そんな感覚がする。
いまの冒険者には、この道、いや地球は脆すぎる――のかもしれない。
冒険者は地球を傷つけないよう、優しく、そっと足を出して歩く。
しばらく進むと一台の馬車が向こうからやってくる。
「あれは定食屋のオヤジ殿」
冒険者は御者台の店主に軽く微笑み、道をゆずった。
馬車がすれ違う。と、幌のかかる荷台から悪臭とともになにやらうめき声がする。
(なんだ?)
冒険者がちらり荷台をのぞくと、そこにはオークがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
「ブーッ! ブブッーー!!」
オークの叫びがこだまする。
馬車が通り過ぎると静けさが戻った。
「オヤジ殿も朝からオーク討伐とは精が出るな!」
冒険者は「ようし、俺も負けないぞ!」と張り切るが、道中でなにかに気づき、顔を青くして吐いてしまった。




