伝説
雪の町。
大陸の最北、険しい山々に囲まれた盆地にあるその町は、一年を通じて雪に閉ざされている。
そこへ三人の冒険者が訪れた。
「こんにちは~。って、誰もいませんね」
町というが、人が住んでいたのは遥か昔の話である。
「当たり前だろ。こんなところで人間が暮らせるもんか」
「でも、建物は結構残ってますよ」
一部は雪の重みで潰れているが、多くはまだ人が住めそうだ。
「建物があってもな」
そう言って、ヒゲの男がくしゃみした。
「伝説では、勇者が訪ねたときはまだ誰か住んでたらしいけどな」
ヒゲの男は鼻をすする。
いまは昔の住人が作ったであろう雪だるまだけが、さびしく立っている。
若い冒険者がそのひとつを優しく撫でた。
「この子たち、どれくらいここにいるんでしょうね?」
「俺たちが生まれるよりずっと昔からだろうな」
三人は町の大通りを歩き、その脇に作られたかまくらを見つけた。
背の高い冒険者が中をあらためる。
かまくらは三人が入っても十分な広さがあった。
「今日はここに泊まろう」
三人はそう決め、さっそくキャンプの準備をする。
「風が吹かないだけでもだいぶマシだな」
「中で火を使っても大丈夫ですかね? 氷が溶けたりしません?」
「大丈夫だ。俺は雪国の生まれだが、昔はよくこんなかまくらで、皆で鍋をつついたりしたもんだ」
背の高い男が魔法を唱え、台に並べた炭に火をつける。
「あったかい」
「さあ、飯を作るぞ。今日はトナカイのスープだ」
「待ってました!」
背の高い男は鍋に雪を詰め、トナカイの肉と香草を入れて煮込む。
湯気がたちのぼり、いい匂いがかまくらに満ちる。
「よし。できたぞ」
背の高い男が器に取り分け、三人で食べる。
「うめぇ」
「たまりませんね」
三人は夢中になってかきこんだ。
食後は手早く器を雪で洗い、早々と就寝する。
数時間後。三人は起きて表に出る。
「出たか」
夜空に虹のカーテンがかかっている。オーロラだ。
「綺麗ですね」
「ああ」
七色にきらめくオーロラは、ほんのすこし手を伸ばせば届きそうなところまで降りてきている。
若い冒険者が手を伸ばし、そして空を切った。
「やっぱり取れませんね」
「伝説は伝説か」
勇者はこのオーロラを切り取ってマントにしたと云う。
オーロラのマントはドラゴンの炎を防いだとも伝わる。
「まあ、見れただけでも良かったじゃねえか」
「そうですね」
オーロラの降り注ぐ下で、三人はコーヒーを片手に、いままでのことやこれからのことを語り合い、夜を明かした。
そして、日の出とともにここを発った。
三人が去った後、
「行ったね」
「人が訪ねてくるのは何年ぶりかな?」
「さあ? もう覚えてないや」
「ねえねえ。あの人たちオーロラを取りに来たみたいだけど、どうして虹のはさみを使わないんだろ?」
「おっちょこちょいで忘れちゃったんじゃないか?」
「僕らにも気づかなかったよね」
「頭触られたときはバレたと思ったけどな」
町は賑わい始める。
「雪団子できたよー」
「はーい」
伝説はいまも息づいている。




