名剣
夕暮れの町。ひとりの冒険者が裏路地をとぼとぼ歩いている。
「どうしよう」
冒険者はため息をつく。
大事な剣がぽっきり折れてしまった。
「新しいの買うしかないか」
冒険者は財布の中を見て、またため息をついた。
気落ちしたまま武器屋に向かう。
と、その道中、どこからか鉄を打ちつける音がする。
(こんなところに鍛冶屋なんてあったかな?)
もしかしたら掘り出し物があるかも。
男の足は音の鳴る方へ向かう。
しばらく進んだところで店に着いた。
レンガ造り。煙突から煙がのぼっている。
入口の脇に武器屋の表札がある。
「すみません」
「いらっしゃい」
店に入ると、ぶっきらぼうな男の声がする。
見ればカウンターの奥で、店主とおぼしき大男が腕を組んでこちらを睨んでいる。
「ども」
冒険者は気まずそうに視線を店内に移す。
店は武器屋と鍛冶屋が一体となっているようだ。
手前には売り物の剣や斧がところ狭しと並び、奥には炉や金床がある。
「あの、剣が折れちゃって」
冒険者は腰の剣を外し、抜いて見せる。
店主は一瞥して、棚から一振りの剣を取り出し、ドンッ! とカウンターに置いた。
(見てみろってことか……?)
冒険者は恐る恐るその剣を手に取る。
折れた剣と似たような仕様であるが、鉄が良い。冷たく凛とした風格がある。
「あの、おいくらでしょう……?」
「銀貨2枚」
(安っ?!)
なにかいわくつきかもしれない。冒険者はまじまじと剣を見る。
と、その研ぎ澄まされた刃にハエが止まり、ぽとり真っ二つに斬れた。
冒険者は息を呑む。
「あの、本当に銀貨2枚でいいんですか?」
大男はうなずく。
「買います!」
冒険者は支払いを済ませ、揚々と店を出た。
「隠れた名店を見つけてしまったな」
冒険者は「ふふっ」と笑みをこぼし、「明日が待ち遠しい」といった様子で家に帰り、剣を枕元に置いて眠りについた。
翌朝。日の出とともに目が覚める。
いつもならまだ寝ている時間。なのにダンジョンへ行きたくて仕方ない。
枕元の剣を手に取ると活力がみなぎってくる。
体から湯気がたちのぼり、大気に溶け、地球を満たしていく。
居ても立ってもいられない冒険者は、
「ふっ。今日は久しぶりに朝ダン(※朝、ダンジョンにいくこと)してみるか」
粗末なベッドから跳び起き、井戸で顔を洗い、早々に出かけた。
街から歩いて1時間。麗しき森のダンジョン。
あらわれた不運なゴブリンを斬る。
「こ、これは!?」
剣は、ゴブリンの腕から体、手にした斧までも両断した。
なのに手応えがない。まるで空を斬ったかのよう。
「こいつはすげえ!」
試しに木を斬る。幹が斜めにずり落ち、倒れた。
その切り口にはささくれひとつない。
「これなら……」
冒険者は難関ダンジョンに乗り込み、次々と強力なモンスターを撃破して名をあげた。
それから一か月後。
「そろそろ剣をメンテナンスに出すか」
冒険者は鼻歌まじりにふたたび店を訪ねた。
「大将、やってる?」
「いらっしゃい」
店主は相変わらず腕を組んで立っている。
「剣をみてほしいんだけど、どうかな?」
冒険者は腰の剣をみせる。
刃がところどころ欠け、ヒビまで入っている。
店主は一瞥して、棚から一振りの剣を取り出し、ドンッ! とカウンターに置いた。
「あー、やっぱりダメな感じ? そうだろうとは思ったけど」
冒険者は財布から銀貨2枚を取り出して、カウンターに置く。
が、店主に突き返された。
「えっ、なに?」
「100枚」
「はっ?」
「銀貨100枚」
冒険者は唖然とする。
「えっ、この間は2枚だったじゃん」
「100枚」
払えないなら出て行けと、冒険者は表に放り出されてしまった。
(なんだよ……足元見やがって)
ふてくされた冒険者は別の店で代わりの剣を銀貨10枚で買い、帰宅した。
翌日。冒険者は森でゴブリンと戦うが、
「なんだよこれ……」
苦戦していた。難関ダンジョンを踏破した冒険者が、である。
渾身の力でゴブリンを斬りつけても、まるで刃が通らないのだ。
(たかだかゴブリン相手にどうなっているんだ?)
理由は明白である。
どう振っても斬れる剣のせいで冒険者の腕前が落ちていた。
(嘘でしょ?)
本当である。
銀貨10枚のそれなりの剣を、いまやただの鉄の棒としてしか扱えない。
(そ、そんな……)
冒険者はゴブリンの腹に蹴りを入れ、その隙に逃げ出した。
そしてあの店に駆け込む。
「大将、剣をくれ!」
「120枚」
「昨日は100枚だったじゃん?!」
「130枚!」
冒険者は泣く泣く言われた額を支払うのだった。




