致命傷
ゴブリンキング現る。キングはゴブリン軍団を組織し、辺境の町に押し寄せた。
辺境伯は兵力不足を補うべく冒険者を雇う。
「頼りにしているぞ」
白羽の矢が立ったのは大陸最強との呼び声も高い、壮年の戦士である。
「お任せください」
壮年の戦士は片膝をついて辺境伯の求めに応じた。
ゴブリン軍団の数は三千。一方、辺境伯の兵は千。これに冒険者たちが加わる。
「援軍が来るまで耐えてくれ。十日だ。十日後には五千の援軍が来る」
辺境伯は城壁に弓兵を並べ、ゴブリン軍を迎え撃つ。
しかし、死を恐れぬゴブリンたちにわずか三日で町の門を破壊された。
「ゴブリンには良い将がいるようです。この将を討てば必ず乱れます」
壮年の戦士はそう辺境伯に訴え、夜のうちに仲間を連れて町を出た。
翌日。ゴブリンが町を襲う中、隙をついて冒険者たちはゴブリン将軍を奇襲する。
「どけ、雑魚どもめ!」
戦士が斧を一振すれば、十体のゴブリンの胴が飛ぶ。
戦士たちはあっという間にゴブリン将軍のもとにたどり着いた。
「ゴブ、ゴブゴブ?!」
「誰が五分五分だ!!」
一刀両断。戦士はゴブリン将軍を討った。
「ひきあげるぞ」
将を失ったゴブリン軍は統制を失い混乱する。
それを利用して冒険者たちは離脱するが、
「うぬっ!」
流れ矢が戦士に深く突き刺さった。血が吹き出る。
「おい、戦士が射られた。誰か手を貸せ」
冒険者たちは煙幕を張り、なんとか戦場を脱した。
しかし戦士の傷は深く、僧侶の治癒魔法も効果がない。
「この傷ではもう……」
戦士は天を仰いだ。
「あきらめるな」
「すまない。俺の冒険はここまでのようだ」
「そんな……」
その凄絶な傷に、見守る仲間たちの顔も青い。
「皆と冒険できたこと誇りに思う。星を照らす海、虹を染める泉、地平を象る雲……。どれも最高の思い出だ」
戦士は激痛で額に汗しながらも笑う。
「闘士、覚えているか? 二人で倒したドラゴンのことを……」
「もちろんだ。でかい戦だった。近隣領主の兵と俺たち冒険者合わせて五千。剣が折れ、矢が尽きるまで戦った。最後は俺が投石器で飛び出してドラゴンの頭をハンマーでかち割り、お前が尻尾を切った」
「ああ。その後、皆で酒を飲み、肩を組んで踊り明かしたな」
「そうだ! お前の踊りがあまりにもヘタクソなせいで、鍋はひっくり返るわ、けが人が代わりに踊りだすわで大変だった」
「ああ。夢のような時間だったな」
そう言って戦士は、今度は傍らの剣士に話しかける。
「剣士。故郷の村を出て二十年、ずいぶん遠くまで来たな」
「ああ。いろんなことがあった」
「昔は三人でよく遊んだな。あの娘は元気にしているだろうか?」
「今度、会いにいこうぜ」
「いや、この傷ではもう」
「そんなことはない……」
大丈夫だ、と言いかけて剣士は口を閉ざした。
戦士は「気にするな」と微笑む。
「こんな形で長い冒険に幕を下ろすとは思わなかったが、振り返ってみれば俺は幸せだった。いい冒険者人生だったよ」
「そんな。貴方ほどの冒険者がこんなところで終わりなんて」
僧侶は己の治癒魔法の未熟に憤り、それを認めたくなくて、
「どうして」
「おい。よせ」
仲間の制止を振り払い、言ってしまった。
「どうして貴方ほどの冒険者が、膝に矢を……」




