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秘剣

 ドラゴンの硬いうろこさえも斬るという名剣ドラゴンスレイヤー。

 冒険者のあこがれであり、好事家マニア垂涎すいぜんの的である。


 迷いの森。モンスターと冒険者たちが戦っている。


「サイクロプスだ!」

「先生! お願いします!」


 馬車からひとりの剣士が出てくる。

 その背には名剣ドラゴンスレイヤー。

 先生と呼ばれた女剣士はひとつ目の巨人を相手にひと息で懐に飛び込み、


「崩拳!」

 

 みぞおちに拳を叩き込んだ。

 サイクロプスの体がくの字に曲がり、崩れ落ちる。


「おお、さすが先生」

「サイクロプスを素手で仕留めるとは」


 冒険者たちは称賛する。


「容易きこと」


 先生はこの程度で騒ぐなと、止めさせた。

 その日のキャンプ。


「どうして先生は剣を抜かないのですか?」


 若い冒険者が先生に訊ねる。


「私の剣は強敵を斬るためにある」

「サイクロプス程度では剣を抜くまでもないということですか!」


 冒険者は感服してますます先生を尊敬した。

 次の日。一行は森を抜け、平原に入る。

 と、上空に一頭の赤いドラゴンがあらわれた。

 冒険者たちは森に隠れるが、見つかってしまった。


「俺たちじゃ太刀打ちできねえ」

「先生をお呼びしろ!」


 ドラゴンは強敵である。小国が一頭のドラゴンにより壊滅した例もある。

 しかし先生は普段と変わらぬ様子でドラゴンと対峙した。


(いよいよ先生が剣を抜くぞ!)


 名は体をあらわす。ドラゴンを狩るための剣。それこそドラゴンスレイヤー。

 皆が固唾を飲んで見守る中、先生は、


「来い!」


 挑発するようにドラゴンを手招きする。

 怒るドラゴンは大きく息を吸い込み、炎のブレスを放った。

 押し寄せる火炎が先生を呑み込み、辺り一帯を火の海と化す。


「そ、そんな……先生!?」


 少し離れた場所でも肌がビリビリするほどの熱気。

 冒険者らに動揺が走る。が、燃え盛る炎から、先生はビュンッと飛び出し、


「裸絞!」


 ドラゴンの首に飛びつくと、気管を絞め上げて窒息させてしまった。


「さすが先生。ドラゴンを素手で倒すなんて」

「ああ、私が吟遊詩人なら素晴らしい曲を書くのに……」


 これには冒険者たちも拍手喝采、賞賛のあめあられである。


「あまり持ち上げるな」


 先生は苦笑した。

 その夜。先生はひとりテントで剣を下ろし、ほっと息をついた。


「危なかった」


 名剣ドラゴンスレイヤー。持っているだけで皆にちやほやされ、売れば家が建つ品である。傷でもつけた日には寝込んでしまうだろう。

 そう、先生は出し惜しんだ。そして出し惜しみを続けた結果、剣術より体術に秀でるようになった。


「うふふ。私のドラゴンスレイヤー」


 先生はうっとりする。

 自慢の剣技はすっかり錆びついたが、自慢のドラゴンスレイヤーは今日も傷ひとつない。

 先生は明日もドラゴンスレイヤーを背負って旅をする。

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