最速
――最速、集う。
今日は待ちに待った年に一度の、もっとも”速い”冒険者を決める大会の日。
ルールは簡単。陸上を走破すること。ただ、それだけ。
掛け値なし、地上最速を決める大会だ。
この日のために最高の馬に、最高の訓練を積み、最高の準備をしてきた。
「行こう……最速が待っている」
俺は愛馬にまたがり、夜明けの牧場を駆けた。
会場は馬の名産地・ハインリグ。
普段はない屋台や馬券売り場、観客やギャンブラーでお祭り騒ぎである。
乗馬レースと銘打たれているが、乗り物はなんでもいい。ロバやダチョウ、果てには人間にはみを噛ませて馬車をひかせている女王様気取りのバカもいる。
(……醒めちまうぜ……俺の夢が……)
俺たちの走りは見世物じゃない。本物なんだ!
熱気に包まれる会場。俺はクソッタレどもにつばを吐いて別れをし、その時を待つ。
正午。ようやく舞台が整う。
参加者はおよそ二百人。魔法使いが打ち上げた花火に合わせて一斉にスタートを切る。
「やあ。君はずいぶんと良い馬に乗っているね」
開始早々、キザな野郎が隣につく。
「僕のサラブレッドと比べれば毛並みも体格も劣るけどね」
そう言って笑う野郎の鼻っ柱に拳を見舞ってやった。
野郎は落馬して土煙に消えていく。
ここはルール無用のバトルフィールド。そう俺は戦士!
(……人馬一体……ふたりで最速なんだ……!)
愛馬がいななく。俺たちはふたりで最速をとりにいく。
平原が終わり、森に入る。
張り出した根。突き出た枝。暗い森の視界は絶えず不良。
(だが、そんなのは関係ねえ……俺たちの目は栄冠をはっきり捉えている!)
愛馬の呼吸にあわせて手綱をたぐり、水が流れるように木々の間をぬう。
まさに融通無碍。しかし、そんな俺たちの走りについてくる奴がいる。
フェンリル。伝説の魔獣に乗る女の子。
「ちょっと邪魔なんだけど!」
小回りの利くフェンリルはこの森で最速。だが!!
(……この道は俺たちのVictory road…… これだけは誰にも譲れねえ……!!)
フェンリルの弱点はその車高。
俺たちは堆積した落ち葉を踏み抜き、後ろ足で跳ね上げた。
「ひっ」
視界不良に陥ったフェンリルは前方不注意で大木とランデブーし、消えた。
森を抜け、崖を下る。大詰め。俺たちの前にはひとりの女がいる。
大会十連覇。不敗神話を誇るチャンピオン。その愛馬は白く気高きユニコーン!!
(さすがチャンピオン)
華麗な手綱さばきと体重移動でつづら折りのコーナーをきっちり攻めている。
一分の隙もない。ここにきて最高のバトル。心が加速していく……!
(穢れを知らぬチャンピオン…… それも今日までだ…… ぶちぬかせてもらうぜ…… 俺たちのHeat Soulで!)
チャンピオンのケツを追いかけるのも悪くはない。
だが、今日はもっといい女を待たせている!
「いくぜ相棒!」
俺はヘアピンコーナーを前に加速し、チャンピオンを内側から差す。
チャンピオンはギョッとして、
「バカッ、その速さでは曲がれない……!」
こちらを見た。と同時に俺は手綱を引き、愛馬を横へ滑らせる。
「いけぇぇええ!」
「なにィ! 四足ドリフトだとっ……!」
特注の蹄が地面をえぐり砂煙をあげる。
「私は負けない!」
チャンピオンはアウトよりのラインからインに切り込む。
俺のインを突くつもりか。
「そうはさせるかよ」
俺は愛馬の前足を溝にひっかけて強引にインをキープしつつ、遠心力で曲げていく。
「ありえない……」
あ然とする元チャンピオンを置き去りに、俺たちはコーナーにタッチしてターンし、そのままゴールへと飛びこんだ。
あの日、俺たちは最速だった。




