落とし物
どこにでもいそうな若い冒険者が、そこら辺にいるゴブリンと対峙する。
町外れの森。駆け出し冒険者のありふれた日常。
しかし、その手の剣は根本からぽっきり折れている。
「よくも俺のエクスカリバーを!!」
銀貨7枚。初心者向け冒険スターターキットに入っていた一本である。
「なんでゴブリンのくせに、俺より良い装備してるんだよ!!」
冒険者が叫ぶと、ゴブリンはゲラゲラと笑う。
その手には、冒険者のものとは比べものにならない、職人が精魂込めて鍛えた剣がある。
「ゲッゲッゲ」
ゴブリンは得意気に、これみよがしに剣を舐める。
「どうせ拾い物のくせに」
冒険者は折れた剣を投げ捨て、
「弁償させてやる」
素手でゴブリンに襲いかかった。
その日の夕暮れ。辺境の町。
『最寄りの遺跡まで15分』
『打ち身、切り傷にカエル印のポーション』
など張り紙のされた門を、さきほどの冒険者が胸を張って歩いている。
傷だらけの体にボロボロの衣服。しかしその顔は誇らしげである。
腰にはゴブリンが持っていた剣を吊るしている。
「ニイチャン、その酷いなりはどうした?」
露店のうさんくさそうな店主がその冒険者に声をかけた。
「おう、さっき強敵と戦ってきたんだ」
「へえ。そいつは大変だったな」
店主は目を細め、その腰の剣を品定めする。
冒険者は剣を鞘から抜き、見せてやった。
「良い剣だな」
「そうだろう」
夕焼けに照らされて、剣は真っ赤に輝く。
「こいつがなければ、あそこでドラゴンにやられていたかもな」
得意気な冒険者に、通りがかった身なりの良い子どもが、
「ああ!? それ僕の剣だ!!」
と、声をあげた。
「はあ?」
「衛兵さん! 泥棒です!! 助けてください!!!」
たちまち衛兵が駆けつける。
「お兄さん。ちょっと詰所まで来てくれる?」
「え、いや、あの、なにか誤解が」
「話は詰所で聴くんで」
冒険者は両脇を衛兵にがしっと掴まれ、詰め所に連行されていった。
気づけば裁判所。
「ああ。この剣は確かに俺がそこの坊主に売ったもんだ。ここに印がある」
法廷で鍛冶屋の男がそう証言する。
「ほら見ろ。この泥棒が!」
原告席で、剣の所有者だと主張する子どもがふんぞり返る。
「静粛に」
裁判官がガベルをガンガンと打ち鳴らした。
(どうしてこんなことに?)
若い冒険者もとい被告はうなだれた。
「被告人。この剣はどのようにして手に入れましたか?」
裁判官から質問され、ハッと顔をあげる。
「ゴブリンが持っていたんです!」
「嘘つき! 盗んだくせに!!」
「静粛に!」
裁判官は咳払いして、質問を続ける。
「被告人はそれを証明できますか?」
「それは……」
冒険者はちらり横を見る。頼りの弁護人はあくびをしている。
(証明なんてできるかよ!)
無言のまま時が流れる。裁判官が判決を下そうとガベルを振り上げたところで、
「ちょっと待ちな!」
法廷の扉がバンッと開かれた。
あらわれたのは露店のうさんくさそうな店主である。
「貴方は?」
「俺はしがない薬売りさ。無実のニイチャンのために飛んできたんだ」
「どういうことですか?」
「少し前、町外れの森でその剣を持ったゴブリンを見たぜ」
「証明できますか?」
「俺のほかにも見たって冒険者は多いぜ。町で聞いてみな」
店主はニヤニヤする。
「でたらめを言うな!」
原告の子どもが目を丸くする。
「でたらめなんか言ってねえよ。ああ、そういえばアンタも似たような剣持ってたな。あちこちで見せびらかして。それが、たしか一週間前だったか、試し切りに行くなんていったきりパッタリ止んで。商人の間じゃ噂になってたぜ。ボンボンがまた剣をゴブリンに盗られたってな」
「なっ!?」
原告はわなわな震えだした。顔が真っ赤である。
「原告は剣をどこに保管していましたか?」
「それは……」
裁判官に問われ、原告はそっぽむいた。
しーんとする。
「コホン。では判決を下します。原告を本来の剣の所有者と認めます。しかし、原告は事情を隠して無実の者を訴え、迷惑をかけました。よって相応の礼金と慰謝料を被告に支払ってください」
これにて一件落着である。
町の大通り。冒険者と露店の店主がいる。
「助かったよ」
「いいって気にすんな」
冒険者の腰にはあの剣がある。
裁判の結果を受け、原告は慰謝料がわりに剣を差し出した。
「こういうときは助け合いだろ?」
店主は冒険者の肩を叩き、右手を出した。
冒険者は握手しようとするが、
「ほら、早く剣をだせ」
パシッと払いのけられる。
「は? なんでだよ!」
冒険者はあっけにとられた。
「礼だよ。助けたんだから当然だろ? それともなにか? いまから勘違いでした、裁判やり直してくださいってお願いしにいくか?」
「そ、そんな」
結局、剣は取り上げられてしまった。
町の一角。ありふれた冒険の一幕である。




