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15 幸せを教えて!

14話と同時投稿です。

「えっ」

 たちまち、ランダはうろたえだした。

「ランダ。言いたいことがあるの」

「ちょ、ちょっと待ってくれエリュア」

 ランダは反射的に、手をかざしてエリュアを止める。

「俺から言う!」

「あなたからはもう、二度も言ってもらったわ。今度は私が言う番だから」

 潤む瞳が、鉱石の光できらめいた。

「ありがとう、私を色々な意味で守ってくれて。私、あなたと一緒に生きたい。これから先、ずっと。……私と、結婚して下さいませんか?」

「喜んで、す、する!」

 ランダはどもる。

「初めて会った時からずっと憧れていたあなたが、俺の妻になってくれるなんて。こんなに幸せなことはない。けけけ結婚しようエリュア!」

「嬉しい。私も幸せです。……それに」

 エリュアはランダの頬にそっと触れた。

「私が女王として執政のあなたと結婚すれば、マルディガルの民も安心するでしょうね。裏切らないという証明、二国間の同盟になるもの」

「確かに。民を幸せにする結婚ができることも、幸せなことだ……うん」

「ふふ」

 視線が外せない。

 自然と顔が近づきそうになり、ランダはあわてて口元を覆った。

「いやダメだ! 結婚式までは! 一角獣たちの手前もあるし!」

「そう……?」

「あなたとの仲を周囲に見せつけている間、口づけたくて仕方なかったが……耐える!」

 ぐっ、と両手を握るランダを、エリュアは静かな微笑みを浮かべたまま、見つめていた。


 部屋に戻ろうと廊下を歩くエリュアに、トルリアから戻ったザクロがひっそりと付き添う。

「ザクロ。私についてきてくれて、そして今回のことに力を尽くしてくれて、本当にありがとう」

 エリュアは振り向いて、微笑む。

「好きになった人と結婚できるなんて、夢みたいだわ」

「本当にようございました。……少し、お疲れですか? あまり元気がないようにお見受けします」

 じっと見つめるザクロに、エリュアは軽く首を傾げる。

「そう? よく、結婚前に花嫁が憂鬱になる、なんて話を聞くけど、それかしらね」

 そして再び前を向いて歩き出しながら、彼女はつぶやいた。

「私は、そういう、普通の花嫁ではないけれどね……」




 エリュアが女王になったことで、諸外国との取引は順調に進んでいる。


 同時に、結婚式の準備も着々と進んだ。

 小さな新興国の女王と、同じく大国というわけでもない都市国家執政の結婚式なので、マルディガル側はあまり大規模なものにはしないつもりでいた。

 しかし、これまでの経緯で色々と察している各国──特にエリュアと会ったことがあり彼女に好印象を抱いている要人たちは、ぜひ何らかの形で祝いたいと連絡をとってきた。

 個別に対応するのは無理だ、ちゃんとした結婚式をやってほしい、と役人たちに泣きつかれ、エリュアもランダも困り果てる。

「トルリア王国の手前、大っぴらに国賓として招待すれば迷惑がかかるし」

「そもそも、そんな大きな会場などないぞ」

「そうだ!」

 フォーシードが声を上げる。

「国際物産商談会と同時開催、ってのはどうかな? マルディガルらしくていいんじゃないか?」


 というわけで、結婚式は秋の終わり、国際物産商談会のさなかに行われた。

 会場は、港全体とセマン・セターレ号上だ。


 実りの季節、会場には各国の豊かな生産物と料理がずらりと並び、ただでさえ雰囲気は盛り上がる。

 要人用に区切られた場所と、かなり出入りが自由な場所があり、マルディガルの多くの民も振る舞い酒にあずかった。 

 船の甲板が式場なので、皆が見ることができる一方で、船側からは出入りをしっかりと見張ることができる。可能性として、怒り狂ったニキウスが性懲りもなく暗殺者を送り込んでこないとも限らないので、警備は万全だ。

 それに船長は航海中、司祭の代わりを務める立場である。今回、特別に、フォーシードが式を取り仕切った。


 短めのヴェールを海風になびかせ、細身のドレスで甲板に現れた花嫁は、皆が見とれるほど美しかった。

 大きな身体を騎士服の礼装に包んだ花婿も、どうやら見とれてしまったようで、司祭につつかれて我に返る始末。


 二人は幸せそうに、並んで愛を誓った。


 やがて、夕焼けに染まった空が少しずつ群青へと変わり始める。

 甲板から港を見つめていたエリュアが、寄り添うランダに視線を移した。

「聖地には定期的に視察に行きたいけれど、一角獣は、女王を迎えにきてくれるかしら」

「……ん?」

 ランダが首を傾げ、そして口元をもにょもにょさせる。

「しかしエリュア、もう一角獣には、ほら。乗れなくなる、わけだから」

「え?」

 エリュアは首を傾げた。

「でも私、聖地の女王だもの。一角獣に乗れる資格は持ったままで……」

「そ、それはそうしたいという意味か?」

「違うわ、そういうことじゃ……あら?」

 二人は見つめ合う。

「……エリュア」

 ランダは少し口ごもりながら、言った。

「長は、拗ねていたよ」

「な、なぜ?」

「『とうとうエリュアとランダは結ばれるのだな。仕方ないから祝福する。今後、聖地に来るときは、執政殿が女王を背に乗せて来い』と」


「…………」

 口を何度かパクパクさせた後で、エリュアはカアッと赤くなって視線を泳がせた。

「やだ……」

「い、嫌なのか!?」

「違うの、勘違いしてたの。それが恥ずかしくて」

 彼女は両手で頬を押さえ、珍しくあわてる。

「私てっきり、一角獣たちの女王になったら一生純潔で過ごすものだって思っていて……! 普通の花嫁にはなれない、でも、好きな人と結婚できて幸せに過ごせる。今までに比べたら、それで十分だって」

「……なんてことだ」

 言葉が出ないランダに、エリュアはサッと向き直った。 

「でも本当は、ずっと知りたかったの。想い合う夫婦が身も心も結ばれる幸せって、どんなものなのか。きっと、愛がうーんと伝わり合うんじゃないかって想像して」

「かわいい」

 ぽろっとランダはこぼし、自然と腕を広げた。

 エリュアは彼の胸に飛び込み、首に手を回してギュッと抱きつく。

 港の方から、おお、などと歓声が上がった。

 エリュアはランダの耳に口を寄せ、ささやいた。

「早く、知りたくてたまらないわ」

「エリュア……!」

 執政は、女王に陥落する。

「……行こう!」


 元々、商談会兼披露宴は自由解散的な形式で、いつまでも飲んでいたい者は飲んでいていい宴だった。

 そしてエリュアとランダは、なるべく遅くまでそれにつきあう予定でいたのだが。


 突然、大きな鋼色のオオカミが背中に花嫁を乗せて、甲板からジャンプした。港に降り立ち、公邸に向かって駆け出す。

「新郎新婦の、少々早い退場でーす」

 司祭の楽しそうな声が響いた。

「ついに、だねえ」

「幸せに。乾杯!」

 招待客たちは杯を掲げ、二人を祝福したのだった。


 後にエリュアは、

「私って、こういうことで恥をかく運命なのね」

 と頬を染めつつも、幸せそうに笑ったとか。

 とにかく彼女がどんどん美しくなるので、ランダは気が気ではない日々を過ごしている。


 一方、トルリア王国ではその後、政変が起こり、ニキウス王は幽閉された。ウリーダ姫は降嫁したが、使用人と駆け落ちしたという噂もある。王は、分家の者から選ばれた。

 新しい王は、宰相となったエリュアの父の助言の元、マルディガルや一角獣の国とも穏やかな関係を築いているという。



【美しい生贄は取扱注意 完】

お付き合いいただきありがとうございました!

活動報告に後書きがあります。

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