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エピローグ:星を見上げて、空の向こうへ

 秋の新学期が始まった。

 教室では進路調査票が配られ、ざわめきが広がる。


 ——放課後の部室。

「うわー、進路調査とか、まだピンと来ないんだけど」

 夏希はプリントを机に広げ、ため息をついた。


 一方で千夏は真剣な顔でペンを走らせる。

「私は……とりあえず、書けることから書いておこうかな」


 ふと夏希が千夏の手元を覗き込む。

「あっ」

 そこには「美凛浜女子大学」の文字。


 夏希は慌てて自分の用紙を裏返したが、千夏の目が鋭い。

「……ナッキーも同じとこ?」


「……まあ、なんとなく、ね」

 二人は同時に顔を見合わせ、はにかみながら笑った。


(進路なんてまだぼんやりしてるけど……千夏ちゃんと一緒なら、それでいい)



 しばらくして、颯太と律、岬、そして沙耶先生が部室に現れた。

「お、赤と青!」颯太が手を振る。

「大学でも弾き続けろよ! 俺たちもサポートするし!」

「結局お前ら中心だしな」律がぼそりと付け加える。

「ま、当たり前でしょ」岬は肩をすくめ、眼鏡の奥で微笑んだ。


 沙耶先生は両手を腰に当て、胸を張った。

「ファン第一号は私だから! 大学でも“赤と青”を続けてね。アタシはそれを見届けたい」


 二人は胸が熱くなった。仲間や大人たちに、こんなにも支えられてきたんだと気づかされる。

(私たちだけじゃなかった。みんながいて、赤と青があったんだ)



 部室を後にした二人は、海へ続く坂道を並んで歩いた。

 潮風が秋の香りを運び、ギターケースが背中で並んで揺れる。


 夏希はふと、千夏の横顔を見つめる。

(未来なんてまだわかんないけど、千夏ちゃんと一緒なら大丈夫)


 千夏もまた、夏希を横目で見ながら思う。

(“あなた次第”じゃない。これからは“わたし次第”で、隣に立つ)


 坂の上で立ち止まり、夜空を仰ぐ。星がまたたき、二人の笑顔を照らしていた。

 お互いの想いが重なる。


 (赤と青がある限り、どこまでだって行ける)


 (空の向こうへ——まだ見ぬ未来へ)


 その声は重なり合い、夕暮れの海へと響いていった。

 ギターケースが並んで揺れる。

 

 夜空を仰いでしばらく黙っていた二人。

 夏希が小さく笑い、千夏のほうを向いた。

「……これからも、一緒によろしく」


 千夏も驚いたように目を瞬かせ、すぐに頬を赤らめてうなずく。

「うん。……ずっと、一緒に」


 自然と、手と手が重なった。


 夏希の指先に、千夏の温もりが触れる。

 互いに驚き、けれどそのまま手を離さなかった。


 ギターケースを背にした二人の影は、坂道を並んで遠ざかっていく。

 赤と青のシルエットが、夜空と海の境界に溶けていった。


 ——高校生活は終わる。

 けれど赤と青の青春と音楽は、まだ続いていく。


 そう確信できる瞬間だった。

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