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優しきドクダミ、毒を制す。

作者: 島島

人は誰しも、どこかに「におい」を抱えて生きている。

それが香りなのか、臭いなのかは、他人の鼻次第。

嫌われると思っていた“におい”が、ある日ふと、誰かを守る武器になることがある。

これは、加齢臭と香水が混ざった“ドクダミ臭”をまとった一人の銀行員が、毒のある上司に立ち向かった、ささやかで痛快な逆転劇を短編で書きました。

澤木は40代の銀行員。几帳面な性格で、身なりには人一倍気を遣っていた。特に気にしていたのが体臭だった。毎朝入念にシャワーを浴び、香水をひと吹き。だが、加齢臭はそう簡単には消せない。香水と混ざったその匂いは、家族いわく「ドクダミみたい」とのこと。以来、家では距離を置かれがちだった。


ある日、支店に新しい上司が赴任してきた。見た目は涼しげだが、言動は刺々しく、まるで鋭い針で人の心を突き刺すようだった。澤木の部下たちは次々に彼の標的にされ、失敗を過剰に責められ、表情が日に日に暗くなっていった。


澤木は気づいていたが、見て見ぬふりをしていた。出世街道から外れたくなかったからだ。しかし、ある日、長年共に働いてきた部下が「もう限界です」と涙ながらに打ち明けてきた。その姿に心を打たれた澤木は、ついに覚悟を決めた。


「もう、見ているだけではいられない。」


それからの澤木は、部下を守る盾となった。理不尽な叱責には冷静に反論し、正論で立ち向かった。当然、上司の矛先は澤木に向かう。毎日のように怒鳴られ、無理難題を押し付けられた。


だが、次第に上司の様子がおかしくなっていった。澤木に近づくと眉をひそめ、喉を押さえて咳き込む。「…なんだ、この匂いは…」と呟いた日から、みるみる顔色が悪くなり、ついには体調不良を理由に退職してしまった。


上司が去った後、なぜか本社から澤木に昇進の辞令が届いた。部下たちに頼られ、感謝される日々。あの「ドクダミ臭」が、上司という毒に勝ったのだと誰かが笑いながら言った。


澤木はふと、自分の匂いを思った。ずっと嫌われるものだと思っていたそれが、人を守る力になることもあるのだと、初めて知った。


「まあ…悪くないかもな。」


そう呟いて澤木は、新しい香水のボトルを棚に戻した。

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