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白い塔

魔王が封印されてから10年。復興が進まず世界は混沌としていた。そんなおり、少年と少女が世界を救うかも知れないお話し

第一章: 囚われの出会い

吹雪が唸りを上げる北の果てに、巨大な石造りの刑務所がそびえ立つ。20階建ての塔は外界から隔絶され、凍てついた湖を渡る長い桟橋が唯一の出入り口だ。囚人たちは口を揃えて言う。「入ったら最後、死ぬまで出られねえ。楽になるには死ぬしかねえ」と。

ある日、牢屋に少年が放り込まれた。細身で身なりは汚く、金色の髪はボサボサでノミがたかっている。先住民の囚人がニヤニヤしながら声をかける。「ガキが来るなんて珍しいな。ここは神様でさえマリアの所へ逃げ出す刑務所だ。お前何して捕まった?おえらいさん殺したか魔具売り捌いたか」と当たりをつけながら質問してくる。

少年は床に座り込み、一言「…盗んだ」とぽつり。「あっ?」「…パン盗んだ」「パンだと!?そんなんでここに来たのかよ!」「今のご時世どこも刑務所は一杯だからここに入ってさっさと死ねと言われた」と続ける。

囚人は腹を抱えて笑い、「これは傑作だ。ガキ気に入ったぞ」と言う。少年はムッとして、「ガキじゃねぇ、俺はヨクだ。勇者になる男だ」と返す。

数日後、ヨクの対面の牢屋に看守が黒髪の少女を連れてくる。エレン、魔女教会の使徒だ。「お願いだから、もう一度魔女教会に確認してください! 誤解が解けますから!」と涙目で訴えるが、看守は「黙れ」と突き放し、牢屋に閉じ込める。エレンはへたり込み、「はぁ、どうしよう…。杖も取られたし、調査どころじゃないよ」と呟く。

ヨクは鉄格子越しに興味津々で声をかける。「お前、魔女なのか?」

エレンは驚いて顔を上げ、「そうだけど…あなた誰ですか?」

「俺はヨク。魔女なんて初めて見た。あんた名前は?」

「私はエレン。よろしくね」と優しく答えるが、ヨクの態度に少し警戒する。

「何してここに来たんだ?」と聞くと、エレンは一気にまくし立てる。「何もしてないですよ! 師匠に言われて調査に来たら、『お前みたいな小娘が魔女なわけあるか。売婦か狂人だろう。この牢屋に入ってろ』って入れられたんです! 信じられない。杖も取られたし…」

ヨクは「ひでえな」と笑うが、エレンは「笑いごとじゃないですよ」と愚痴をこぼす。

その直後、エレンが膝を抱えていると、後ろから肩を強く掴まれ奥へ飛ばされる。太った豚の獣人ピグルとその取り巻きだ。「よう、嬢ちゃん。俺はピグル、同じ部屋の囚人同士よろしくな」とニヤリと笑う。


第二章: 危機と奇策

「いたた…」と立ち上がるエレンに、ピグルは「言葉だけじゃなく身体でも仲間になる必要があると思うんだが、どうだ?」と近づく。エレンは「やばっ!」と逃げようとするが、肩を掴まれ地面に倒される。「ちょっ、私人間! 美味しくないですよ!」と抵抗するが、ピグルは「メスならどんな種族もいける口だ」と返す。どんなプレイボーイだと内心思いながら「誰か助けて!」と叫ぶが、囚人も近くにいる看守も見て見ぬふり。絶望の中、豚が最初なんて絶対嫌!と思い抵抗を試みようと思った瞬間、対面の牢屋から声が響く。「助けてやろうか」とヨクが言う。

「助けて!」と即答すると、ヨクは「パン10個、いや100個、あと脱獄の手伝い、魔王退…」と言いかけるが、「純潔以外なら何でもするから助けて!!!」とエレンが叫ぶ。

ヨクは「耳塞いで思いっきり刺せ!」と叫び、牢屋の隅から貝を投げる。次の瞬間、「バン!」と爆音がフロアに響く。ショックシェイルという貝で、衝撃を受けると音を出す性質がある。ピグルと取り巻きは耳を塞ぎのたうち回り、天井のツララが音で折れ落ちる。エレンは「刺せってこれ?」とツララを手にし、ピグルに襲われた怒りがこみ上げ、「豚は地面這いつくばってろ!」と股間を思いっきり刺す。ピグルは「ブギャアア!」と絶叫し倒れる。


第三章:特別房と同盟

看守が駆けつけ、「何だ!」と騒ぎを確認。ピグルは処置に運ばれ、エレンは刃傷沙汰で特別房に移された。暗く寒い独房で、「あれは仕方ないですよね」と独り言をこぼす。

深夜、扉の外から声がする。「いや、お前凄いな。刺せとは言ったけどあそこ刺すなんてな」とヨクが現れる。

「あなた! なんでここに! あと刺せって言ったのはそっちですよね!」と驚くエレンに、ヨクは「ピグルはあの通り、性欲が強すぎてな。時々女をあてがわねえと暴れて何するか分からねえ」と説明。

「偶々あんたがここに来て、喚いて狂ってるって判断された。ここに自分から来る女なんて娼婦かイカレてるかどっちかだからな。真面目な看守はアンタをピグルと同じ部屋に入れたってこった」と続ける。


エレンは「豚と交尾した魔術師なんて笑いものじゃすまないですよ」と呆然とする。ヨクは「そんだけ悪態つけりゃ大丈夫だな」と笑う。エレンは暗い独房に一人でいた不安が薄れ、ヨクが来てくれたことに少し安心しつつ、「…どうやってここまで来たんですか? あと、あの音どうやって出したんですか?」と疑問を口にする。「音はショックシェイルって貝だ。数匹集めりゃあの爆音だ」とヨクが答える。


「はぁ…」とため息をつき、「正直脱獄なんて何時でも出来た。ここ旧式の鍵だし。脱獄しても周りは吹雪、しかも道は一本で桟橋上げられると手が出ねぇ。だから機をうかがってた時に、あんたが現れた」と続ける。エレンは「期待してくれて申し訳ないですけど、杖がないから魔術使えないですよ」と返す。


ヨクは「杖の場所は恐らく分かる。看守長の部屋だ。看守達が囚人から取り上げた高値が付きそうな物は全て強欲な看守長に行くようになってる」と説明。「看守長の部屋はこの塔の一番上にある。確か魔術師は杖がなくても魔術を使えると書かれてたが、あれはガセか」と聞くと、エレンは立ち上がり、「魔術師の腕によりますよ。杖や詠唱がなくても使える魔術師はいますけど、よっぽど高名な魔術師だけです。私なんかはまだ半人前で、せいぜい小さい光を出したり物を浮かせたりくらいです」と答える。


ヨクは「いや十分だ」と即答。「あんたもここで死ぬまで過ごすなんて嫌だし、助けた恩あるよな」とピグル事件をちらつかせ、言葉と目で恩を返すよう訴える。エレンは「正直、ここにいるなんて絶対嫌ですし、刺した豚が復讐に来るかもと思うと…。絶対成功するんですよね」と手を差し出す。ヨクは「勿論」と握手し、脱獄のパーティーが成立する。


エレンが「そういえば、なんであそこで刺せって言ったんですか。大きい音出せば、無関係の看守も騒ぎに気付きますよね」と聞くと、ヨクは「あぁ、刃傷沙汰になれば恐らく特別房に移されるからな。ちょっと賭けではあったが」と答える。

「賭け? 特別房に移されることにですか」と首をかしげると、「いや、それもあるが、あんたが杖なくても簡単な魔術を使えるかどうかだ。それで成功率がだいぶ変わる」と返す。エレンは「成功率って…」と呆れる。

本当は、脱出には上に行くのが必須だが、エレンは見た感じ鈍臭そうで行けないと感じていた。しかし、躊躇なく股間に刺す女だと分かり、言うと切れそうだから心にしまう。「とにかく今から脱獄の計画を話すぞ」と切り替え、ヨクは計画を話し始める。


第四章:脱獄の実行

「まず、この塔は2・3階と19階が看守室、20階が看守長の部屋、17・18階が特別房とされてる」とヨクが説明を始める。「見回りの看守を光で誘い、殴って気絶させ、鍵で下の階の囚人を出す。囚人には1階しか出口がないことや他の牢を開けて暴れて皆で脱出するようほのめかす。その間に俺たちは20階へ行く」と続ける。エレンの不安をよそに、計画は順調に進む。ヨクが特別房の鍵を開け、エレンが光の魔術で看守を誘い、ヨクが殴って鍵を奪う。


下の階で囚人を解放し、「出口は1階の桟橋だけだ。他の牢を開けて暴れて脱出しろ」とほのめかすと、囚人たちが動き出し、暴動が始まる。看守が下へ出払う中、二人は18階で待機し、19階を抜けて20階へ。

扉を開けると、人間大の鷲のような鳥人、イーグルが立つ。「下が騒がしいな。社会のゴミ共が」と見下すイーグルに、ヨクは「今日限りで退所させてもらう」と軽口を叩く。「逃げられると思ってるのか」と嘲笑うイーグルに、「やってみねえと分からねえだろ」と返す。

部屋の奥にエレンの杖を見つけ、「あそこに私の杖が」と小声で伝えるエレン。イーグルは脚に禁じられた魔具「2つの腕輪」をつけ、身体能力が異常に高い。


第五章:看守長との戦いと脱出

ヨクは看守の剣を手に戦いを挑むが、イーグルの爪とくちばしに圧倒される。剣が欠け、体格差と非力さで劣勢に。腹を殴られ、蹴りで吹っ飛び、爪がかすめるが剣で致命傷を回避。エレンが駆け寄ろうとするのを手で制し、「一瞬でいい。あいつの目の前で光らせてくれ」と囁く。


「外に出てどうすると言うんだ。お前みたいな社会のゴミに居場所などない。ここで私のために尽くすのが死後、天国へ行く近道だと言うのに」とイーグルが嘲る。

ヨクはゆっくり立ち上がりながら、「俺は…魔王を倒し勇者になる」と返す。「マヌケなガキだから知らないかもしれないがな、魔王は10年程前に封印されてるんだよ」とイーグルが笑う。


「そんなん百も承知だわ、大マヌケ。それでも魔王は魔王だ。倒してしまえば誰もが俺を認める」「だから、こんな場所で足踏みしてる場合じゃねぇんだ!」とイーグルに真っすぐ目を向ける。

彼には叶えたい願いがある。それはここにいる誰よりも強く純粋な願い “認められたいという願い。”エレンには少なくともそう聞こえた。


イーグルに真正面から突っ込んでいく。散々傷つけられ口の中に溜まっていた血をイーグルの目にめがけて吐き出す。何かしらやってくることは予想しており、イーグルは横に移動し回避。「これで終わりだ!」と鋭い爪がヨクの首を目掛けてくる。その刹那、イーグルは確かに見た。ガキが目を瞑っている姿を。どうしてか思考を巡らす前に、目の前で眩しい明かりが。


「クソっ!」と言い目を瞑りながら防御の姿勢を取るイーグルだが、攻撃が来ることなく疑問に思っていると、「エレン、捕まえろ!」とヨクが叫ぶ。杖を握ったエレンは拘束の呪文を唱える。「エディス(拘束せよ)!」と唱えた直後、看守長の腹部に光の輪が出現。拘束に成功する。


エレンは息を切らしつつ「無茶しないでください」と言い、ヨクは「成功だ」と笑う。「こいつ、エラく力が強かったな」と呟くと、エレンは「禁じられた魔具をつけてて、それで身体能力が上がったんだと思います。見た感じそれ以外の力は無さそうですけど」と返す。

「捕まえましたけど、この後どうするんですか」と聞くと、ヨクは「こいつ連れて屋上へ行く。面白いのが体験できるぞ」と意味深に言う。エレンは「また何か企んでるな」と思いつつ、「いつ他の看守が来るか分からないですし、行きましょう」と急かす。


二人は拘束をしたイーグルを連れ、屋上へ向かう。屋上は極寒で吹雪が飛び交い、視界も悪い。ヨクはどこからか取り出したコンパスらしき物で方向を見極め、「こっちが北を向いてるから恐らくこっち」と壁際にイーグルを立たせる。イーグルは「お前らどうするつもりだ。部下がすぐ来て捕まる。その前に離せば殺しはしない。良い取引だろ」と命乞いするが、ヨクは「後ろ振り向いたら殺す」と一言返す。


壁際から10~15メートル離れたところで、下から「看守長がいないぞ。それもこの血…探せ!」と暴動を抑えた看守達が異変に気づく声が聞こえる。「急がなきゃな」とヨクが呟く。エレンはヨクの意図に気づき青ざめ、「もしかして、もしかしなくてもここから飛ぶ感じですか…」と否定を願うが、ヨクは「あぁ、そうだ」と今日一番の笑顔を見せる。「無理無理無理無理。100%死んじゃいますよ! それにあの鳥、飛べるんですか」と言うが、「飛んでる姿は確認済みだ。後は飛んだ後目的地につけるかだが、止まってる時間はなさそうだぞ」と返す。


「上だ!」と看守達が迫る音が響く。「でも…」と何か言おうとした瞬間、ヨクがエレンの手を取り、イーグルがいる壁際へ全力で走る。イーグルの身体を掴み、そのまま屋上からダイブ。「うわぁぁぁぁ!!!」とエレンの叫び、「なんだ!!!」と状況が分からないイーグルの声がこだまする。ヨクは「飛べ! 飛ばないと死ぬぞ!」と激を飛ばす。


エレンはこれまでの出来事が走馬灯のように駆け巡り、「ああ、私の人生これで終わりか」と意識が遠のく。ヨクはエレンが気を失わないよう時折蹴りを入れつつ、「飛べ!」と再度叫ぶ。イーグルは混乱しつつも死を予感し、羽を羽ばたかせ急浮上。飛行に成功し、塔が見えなくなるまで飛び、ヨクの指示で着陸。着陸後、ヨクはイーグルを殴って気絶させる。


「恐らくこれが禁じられた魔具って奴か。どう見ても普通の腕輪にしか見えねぇ。」とヨクがイーグルの脚から外れた腕輪を手に持つ。放心気味だったエレンだが、少しずつ現実が戻ってくる。「で、出れた…!」と脱出できたことを喜びつつ、ヨクが禁じられた魔具を手にしているのを目撃。当初の目的も蘇る。

「それ、禁じられた魔具って言って、本当に危ないモノなんです。モノによって差はありますが…」とエレンが言う。「脱出はさせてくれてありがとうございます。ただ、私はそれを回収に来たので返してくれませんか」と頼む。

「せっかく脱出できて、なおかつ戦利品も手に入ったんだぜ。せめてどんな力があるかは見てみようぜ」とヨクが返す。「だから」とエレンが言い終わる前に、ヨクは自分の腕とエレンの腕に腕輪をつける。

「2人で勝ち取ったんだからな。半々だ」と笑顔で返す。せいぜい身体能力の向上だけだろうと高をくくっており、一通り腕輪の力を試せたら返すつもりだった。


その直後、腕輪が光り、ホログラムなのか映像が上空に映し出される。そこには2人の夫婦らしき人が出てくる。「よくぞ繋いでくれました。一生の愛を誓うためこの腕輪を作ってから300年。貴方達は10組目です」と言う。エレンとヨクは呆然。

「この腕輪をつけたことは死後も愛を誓うことを宣言することと同じ。夫婦が出来たこと本当に嬉しく思います」と続く。呆気に取られていたが、効果を確認しないとヤバいとどちらも察し、ヨクが尋ねる。

「あの、ちなみにこの腕輪の効果って」と恐る恐る聞くと、女性の方が笑顔で「はい!どちらかが亡くなった時、もう片方もすぐ死にます。大事な夫が亡くなったら妻の方は生きてても意味はないと思い死後の世界で会いたいと願うはずです」と、とんでもないことを笑顔で告げる。

「あと一度つけたら外れないので。外す意味なんてないと思いますが。2人の幸せを願っています」と言い、映像が消え、腕輪の光も消える。

2人は顔を見合わせ、「何だって!!!!」と叫ぶ。吹雪は止み、太陽が出ている薄氷の世界で2人の声がこだまする。

腕輪が外れないことを確認。お互い相手の腕を切るべきか思考が浮かび始めた時、エレンが腕輪の魔力に着目。「これ、腕輪だけじゃなく全身に移ってます…」「つまり?」「腕切っても呪いは解けないです」と告げる。

次章へ続く

自分が好きな話しを詰め込みました。最後までお付き合いして頂けたら幸いです。

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