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箱の中奇譚

作者: 吉高 都司

題名はホラーのようですが、ホラーではありませんので、よろしくお願いいたします。

よく、ひな祭りの片付けを遅れたら、お嫁さんに行き遅れる。そんな言い伝えが、昔からある。


 この暗い、押し入れというか、物置に押し込められ、約一年、ずっと、ずっと押し込められる身にもなって欲しい、相方と息が詰まるような空間にずっと、だ。


 この前なんか、三人官女と一緒に飲み会というか、慰労会というか、ちょっと他の女子と飲みに行っただけで、暫くは口をきいてくれない、そうこうしているうちに三月のひな祭り、久しぶりの外界、横の御姫様は根に持っている様で、澄ましたままの表情だ。


 多分、童謡にある、お雛様はすまし顔とあるのはたぶんそんなことがあった時の事を歌われたんだと思う。


 箱から出され、体にぐるぐる巻きにされた、和紙を解いてもらって、冠や、笏、太刀を身につけさせてもらったら、ビッと身が引き締まる思いになるし外の空気が吸えて大変ありがたい。

 女の子が、きゃあきゃあいって、僕たちの周りをはしゃいで、眺めてもらってたら、ひな人形冥利に尽きる感じだ。


 ここの女の子も、生まれた時に、おじいちゃんおばあちゃんが、我先にと僕たちを用意したもので、二組のおじいちゃんおばあちゃん、お母さん方の姉妹、お父さん方の従妹などが入り乱れて、あーでもないこーでもないと喧喧囂囂(けんけんごうごう)喧々諤々(けんけんがくがく)。それは、それはすごかった。でも、それだけの思いを受けて、祝福されているんだな。


 お姉ちゃんが、赤ちゃんの時僕の頭を痛快まるかじりされて、よだれで、ベタベタ、になった事は寝るときによくうなされる、夢の一つだ。

 妹さんのときは、お姉ちゃんばかり、新しいお雛様でずるいとかなんとか、僕の前で、よくけんかしていた、そのときは、横のお雛様となんだか悪い気がして、複雑な気持ちだった。


 でも、だんだん、ぼくたちを出しても、以前の様に僕たちの前で、お雛祭りというか、みんなで集まって、何かをするといったことは無くなった。

 箱から出して、ある期間が過ぎたら仕舞うといった、義務的な行事となっている。


 妹さんが、昨年学校を卒業し、社会人となって、家を出た。今度はお姉さんがこの春、海外に長期留学に行くという。

 お姫様と、この春が最後かなと話し合っている。


 ひな人形の片付けが遅れたら行き遅れる話だけど。


 たぶん、出来るだけ早く、お雛様と僕と二人だけにさせてくれる見返りに、行き遅れさせない、というお姫様の取り計らいなんだろう。


 今は価値観の多様化というか、結婚だけが、幸せの尺度ではないのが現状、と聞いている。

 でも、お姉ちゃんや妹ちゃんを囲んだ、あの人々の思いだけは、その価値観だけは変わって欲しくないな。


 さて、今年は、物置のなかで、箱の中で、三人官女だけでなく、お姫様も誘って、五人囃子の生演奏でカラオケでも行きますか。


 もし、今度出した時、お姫様が心なしかニッコリしていたら、そういうことだと思ってくれれば・・・ね。

カクヨム様で出品致しました。読んで下さり、お時間いただき、感謝いたします。

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