死んだと思ったら幽霊のまま異世界転移したので、張り切ってポルターガイスト頑張ります
「しんだ…」
目の前の光景に唖然。
泣き叫ぶ母、必死で心肺蘇生する父、目の前に転がる私の死骸、暴れ回る通り魔、恐怖する人々。
ああ…私は。
「死んだんだなぁ…」
お父さんに抱きつく。
もういいよ、助からないよと声をかけても父は諦めない。
母は泣く。
泣く母も抱きしめるけれど、やはり何も伝わらない。
「…ああ、人間って呆気ないな」
どこか冷静になってしまうのは、もう混乱する脳がないからか。
「………悲しいなぁ」
悲しい、悲しい、悲しい。
悔しい。
「せめてさ。異世界転生とか、異世界転移とか、お約束のアレ、ないの?」
幽霊になって。
誰にも認識してもらえなくて。
どこに行けばいいかもわからなくて。
だったらせめて、お約束の異世界生活とかさ。
なにか補填があっても良くない?
「じゃあ、異世界。行ってみるかい?」
「え?」
いつのまにか現れた目の前の黒猫が突然喋る。
そして、意識が暗転した。
ここは…どこだろう。
煌びやかな部屋。
鏡に私は映らない…幽霊のまま異世界転移?
なんだそれ、聞いてないぞ。
「うっ…うっ…ぐすっ」
ふと泣き声に振り返る。
天蓋に守られたベッドに、少女が一人泣いていた。
「…どうしたの?」
「…だあれ?」
少女は何故か私の声が聞こえるらしい。
キョロキョロと辺りを見回す。
「…うーん、見えない…聞き間違い?」
「違うよ、ここにいるよ」
「だぁれ?」
「うーん…天の声さん、かな」
「天の声さん?」
暗闇の中、よくよく少女を見ると…気がついた。
この子、「星の声と天使」という乙女ゲームの悪役令嬢の幼い頃のビジュにそっくりだ。
もしかしたらもしかして。
「ねぇ、貴女のお名前は?」
「リリス」
ああ、やっぱり。
この子はあの悲劇の悪役令嬢だ。
この子は父と継母から教育と称して虐待を受け、将来は愛した婚約者を乙女ゲームの主人公に奪われる。
唯一婚約者だけが希望だったのに、ラストでいつもなにもかもを失っていた。
そして最悪なことに、どのルートでもヒロインと恋仲になる攻略対象の婚約者になってしまうのだ。
ヒロインが王太子アダンのルートに入れば王太子の婚約者となり、ヒロインが公爵令息ルイのルートに入れば公爵令息の婚約者となる。
「ねえリリス、どうして泣いていたの?」
「お父様とお義母様から打たれるの」
「それは辛かったね。よかったらお話、聞かせてくれる?」
「え」
「辛いこととか悲しいこととか、なんでも話して」
それからしばらく、リリスの悲しいお話に付き合った。
肯定も否定もせず、ただ話を聞く。
リリスの表情は、いつのまにか少し穏やかになっていた。
「ねえ、またお話聞いてくれる?」
「いいよ、でも人の誰もいないところでだけね」
「うん!」
こうして私は、成り行きでリリスを見守ることにした。
「このバカ娘!お前はそんなだからダメなんだ!」
「きゃぁっ…」
リリスは本当に酷い暴力を受けていた。
今も髪を引っ張られ引き摺り回されている。
私は…見ているだけしかできない。
…なぁんていうと思ったか!ポルターガイストじゃボケェ!!!
突然リリスの父親の頭の上からタライが落ちてくる。
…ように使用人たちには見えただろう。
リリスの父親が頭を押さえてうずくまる。
「お、お父様…?」
「な、なんだ急に…」
再びリリスを嬲ろうと近寄る父親に、再びタライ攻撃。
「いたっ…!」
「え、あ、え…」
そんなことをあと三度繰り返すと、父親はリリスへの暴力を諦めた。
その日以降、リリスが父親や継母から暴力を受けることも使用人たちから虐められることもなくなった。
あの子は不気味だと、囁かれるのみとなったのだ。
「天の声さん、いつもお話聞いてくれてありがとう」
「うん」
「天の声さんのおかげで最近意地悪されないし、毎日楽しいよ」
「それは良かった」
「お勉強も天の声さんが手伝ってくれるから、他の同年代の子達より進みがいいって」
リリスは最近、明るくなった。
そしてゲームの設定とは違って、優秀になった。
さらに、婚約者との関係性も悪くない。
婚約者は公爵令息のルイ。
彼はとても真面目で誠実な人だ。
そして…彼にも何故か、幽霊の青年が一人取り憑いていた。
その幽霊の青年は、私と同じくあの通り魔にやられたらしい。
名前は律くん。
私たちは意気投合して、リリスとルイも天の声さんの声が聞こえる繋がりで意気投合していた。
私たちはいつのまにか、仲良し四人組となった。
リリスが少女から女性と呼ばれる年齢になった頃。
いよいよ、ゲームの本編が始まる貴族学院への入学が決まった。
そこでリリスは、成績最優秀生として入学式の挨拶を務めた。
これは乙女ゲームではあり得なかったことだ。
そして入学式の後。
ヒロインエヴァとルイが出会った。
「きゃあっ!私ったら、ごめんなさい!」
「大丈夫?走ったら危ないから気をつけてね」
「はいっ!ありがとうございます!あの、私エヴァっていうんです!よろしくお願いします!」
「ああ、うん。俺はルイ、よろしくね」
「はい!」
ヒロインはにこっと微笑む。
「ルイ!」
「リリス。お待たせ」
「そちらの方は?」
「転びそうになったところを助けていただいたんですぅ!エヴァです、よろしくお願いします!」
「エヴァさんね、よろしく」
ヒロインは可愛らしい表情でリリスにも微笑む。
「…なんか、違和感があるんだよなぁ」
幽霊の私がぽつりと呟くと、隣で見守る律くんも頷いた。
「なんか、わかってて演出している雰囲気だね」
「ねー」
ヒロインを見つめる私と律くんは冷ややかだ。
「由依、ヒロインの動向には注意した方がいいかも」
「だね!」
リリスとルイには知らせず、とりあえずこちらで警戒することにした私たち。
そして、事件は起こった。
ある日、突然エヴァがずぶ濡れの状態で廊下を歩いていたのをルイが発見して引き止めたらしい。
魔術を使って、エヴァの濡れた服を瞬時に乾かしてやったルイ。
そんなルイにエヴァは言った。
「実は、リリス様に虐められているんです…」
律くんはそれはありえないと即否定。
ルイも幸いその戯言を信じることはなかった。
「リリスはそんな子じゃないよ」
「え、でもぉ…」
「それ以上リリスを貶すなら許さない」
「え…」
「失礼する」
ルイが背を向けて歩き出した時のエヴァの顔は、律くん曰く鬼の形相だったらしい。
その後、エヴァのリリスへの嫌がらせが始まった。
教科書を自分でビリビリに破いて、リリスの仕業だと嘯いたり。
わざと怪我をして、リリスに殴られたと言ったり。
でもその度に、ルイがそれはあり得ないとリリスを庇い、リリスも優しい性格から多くの人に好かれていたためエヴァの虚言を信じる人もいなくて難を逃れていた。
そんな中で、エヴァは身勝手にもリリスへの恨みを募られたらしく…とうとう犯行に及んだ。
ある日、エヴァが階段を登っていたリリスをすれ違い様に突き飛ばしたのだ。
見ていたのは幽霊の私だけ。
幸いポルターガイストの力でなんとかリリスをすんでのところでキャッチして優しく降ろせたから怪我はしていないけれど。
「大丈夫?リリス」
「こわ、怖かった…」
ぐずぐず泣くリリスを優しく慰める。
可哀想に。
その後泣いていたリリスをルイが発見して、保健室へ連行して無事を確かめた。
そしていい加減エヴァの行為は目に余ると学園長にそのままの足で猛抗議しに行く。
結果、侯爵令嬢を害したという理由からざまぁする間もなくエヴァは貴族学院を追放。
実家の男爵家も追い出されて、娼館に身を寄せたらしい。
「ルイ、リリスを守ってくれてありがとうね」
「いや、婚約者を大切にするのは当然のことだよ」
「かっこいいよ、ルイ」
「ありがとう、リリス」
「お熱いようで」
結果的に、多分おそらく転生ヒロインかなんかだったんだろうヒドインを追放して脅威はなくなった。
そこで、私たちも限界が来たらしい。
律くんの存在感が薄くなっている。
私も同じように、存在感が薄くなっていく。
私と律くんは、顔を見合わせて頷き合った。
「あれ?天の声さん?」
「……!」
「天の声さん…?」
「………二人とも、お幸せに!」
最後の力を振り絞って、二人に祝福の言葉を残す。
そして、意識が暗転した。
目が覚めると、病室だった。
「由依!」
「由依ちゃん、お母さんよ、わかる!?」
「お父さん?お母さん?…私、生きてるの?」
「ああ!よかった!よかった…」
「由依ちゃん…よかった…」
泣き崩れる父と母。
どうやら私は、奇跡的に命が助かったものの意識が戻らない状況が半年続いたらしい。
じゃああれは夢だったのか…。
それから私は毎日懸命にリハビリを続けた。
幸い怪我は塞がったのだが、リハビリがかなりつらかった。
…が。
「あ」
「あ」
リハビリ室で、ある日突然律くんと再会した。
「えっと…覚えてる?律くん」
「うん…てことは由依も覚えてるんだね」
「じゃあ夢じゃなかったんだ…」
「らしいね…」
積もる話もあるもので、それから私たちは毎日お互いの病室を行き来して色々な話をした。
リリスとルイはうまく行っているだろうかという心配とか、結局なんでああいう経験をしたのだろうとか、黒猫の正体についてとか。
そのうちお互いの距離感も前以上に近づいて、私たちは付き合うことになった。
そんなある日、夢を見た。
リリスとルイの、幸せな結婚の夢。
律くんも同じ夢を見たらしい。
いつかの将来、今度は私たちの番だねと律くんと笑い合った。
…猫ちゃんは神様が身体を借りただけの、無害な猫ちゃんです。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
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