ask 3
「ほな、ボーリング場で待ってるわ」
菊地さんはだき枕を持って、部屋から出ていった。この数分で毒されたのだろうか。
それよりこのオタクだ。菊地さんの出入りにも気がつかず、淡々とパソコンに向かっている。
「おい」
聞こえていない。だろうな、音漏れすぎだし。
俺はオタクのイヤホンを勢いよく引き抜いた。
「痛っ! 何すんだババ……誰?」
俺は、こいつがそう簡単にここから動かないことを知っている。
引きこもりのセキュリティは、防衛省もなんのそのだ。つまり強い。
警戒心も強ければ、執着心も強い。気が強い訳ではないのに口が強い。妙に理屈っぽくて頑固。
引きこもりを部屋から出す。
一見簡単そうに見えることだが、冗談じゃなくそれを仕事とする人間が都会にはいるらしい。
直、オタクがいつの間にか引きこもりに変換されていることに関しては、俺の範疇ではない。
とか何とか考えているうちに、オタクは俺の手からイヤホンを取り戻し、またパソコンを始めた。
すかさず俺はイヤホンを引き抜いた。オタクは「ひょっ」と言ってから振り返る。
「何なんだオメー! つか誰だよ」
ああ、やはりここはアレを言うべきなんだ。いや、そんな恥ずかしいセリフは……迷っている時間はないか。仕方がない。全ての羞恥心を捨て、ここに高らかに宣言しよう。
「俺は神だ」
穴があったら入りたい。
オタクは俺の顔をじっと見る。やめろ、そんな眼で俺を見るな。失敗したと確信した、まさにその時だった。
「貴方が……神?」
何とオタクは、眼を見開いてこちらへ近づいてくる。近づいた手は、俺を通りすぎ、部屋のドアに向かった。
そこには、入る時には気づかなかった南京錠やら鎖やらが、綺麗にスッパリと斬られていた。オタクは鎖を拾いあげ、俺につきつける。
「これ、あんたがやったのか」
オタクの顔は徐々に青ざめていく。
「ああ、邪魔だったからな」
「僕に、何の用だ」
「ちょっと外で話がしたい。まぁ断れば、その鎖と同じ末路を辿ることになる」
オタクは震えて鎖を落とし、部屋の外へと飛び出した。飛び出した先はボーリング場。そこには菊地さんもいた。
オタクは菊地さんを見てさらに震えあがる。
「そんな脅えないでいいから」
菊地さんは屈託のない笑顔でオタクに微笑みかける。それが逆に怖いのだ。オタクの背中に手を回し、フロアへと誘い込む。
オタクはやたら呟きながら、菊地さんの話を聞いている。多分、一緒にボーリングをしよう、とか言っているんだろう。オタクが首を傾げたが、菊地さんの刀を見て素早く頷いた。
俺は時計を確認した。あれから12分。一応間に合ったんだ。