ask 2
個室の扉の先は書店の廊下、ではなくボーリング場だった。大音量のBGMと人声、ピンが砕けるんじゃないかという衝突音が、俺の耳を襲った。
菊治さんは受付とレーンの間を歩いていく。つっこむ隙も与えない気らしい。俺は仕方なく耳を塞いだままついていく。
ここはスタジオだったのか。と俺は心の中で呟く。随分な広さがある、普通にボーリング場だ。どこのテレビ会社だろう。
辺りを観察しながら歩いていると、エキストラとすれ違った。肩がぶつかった相手は、
「気をつけろよ、タコ」とタコみたいな頭をしながらほざいていた。軽く会釈し、その場は流す。
菊地さんはそのままつかつかとボーリング場を横切り、出口から出てしまった。何のために来たんだか。
ボーリング場の出口の先は、狭い子供部屋になっていた。壁には痛いポスターが貼ってあり、窓やタンスにはフィギュアが並んでいる。
空気が悪く、室内は薄暗い。パソコンの前に男が座っているが、イヤホンを耳につけ大音量で音楽を聴いていて、俺と菊地さんには気づいていない。菊地さんはその男のベッドに座っており、眼がやたらでかいキャラクターの抱きまくらを、ゴミを見るような眼で見ていた。
ボーリング場に別れを告げ、俺はゆっくりとドアを閉めた。
「こいつはな、オタクの分際で世界を救う役目を担おうとしているんや」
はい?
「今から十五分後、この部屋に神と名乗る少女が現れる」
何故? と質問しても話が進まないので、つっこまないことにする。菊地さんは煙を吐き出し、
「その神とやらが、何故かそいつに世界を預けるんや。ついでにこの部屋にある訳の分からない人形の能力を加えてな」
全く意味が分からないな。神?
また随分勝手な支配者がいたもんだ。
菊地さんはタンスに煙草を擦りつけて火を消した。煙草の匂いが部屋に充満する。
「もし、それをお前さんが止められるとしたらどうする?」
「止めますね、普通。こんな奴に任せられないし」
「そうや。だからお前は選ばれたんや。それがお前の仕事、そしてここまで導いたのがワイの仕事」
頭の中で複雑に絡み合う歯車が、少しずつ調子を合わせて回りだした。
つまりあれだ。俺に与えられた仕事は、このオタクを十五分後までに部屋から出し、神との遭遇を防ぐ。
「勘がええの」
そうすれば世界は今まで通りで、オタクに左右されることはない。
「そういうことや」
なるほど。神とやらは置いておくとして、最優先事項はオタクの退出って訳だ。