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「ほな軽いテストするわ」
そういって菊治さんは胸ポケットに手を入れた。拳銃だ! と警戒したが、中から出てきたのはメモ帳だった。
それを片手に持ち、菊治さんは俺の向かいの椅子に腰掛けた。これでとりあえず刀を突き付けられる心配はなさそうだ。
そして棒読みに近い感じで、
「まず、えー、あなたは神を信じますか」
いえ、全く。世界に何種類いるのかも分からない支配者なんて、信用できません。
てか、何だよその質問。やっぱ怪しい宗教の勧誘か、と頭の隅に触れたが、それでは『ナビゲーター』とか『主人公』とかとあまり繋がらない。それにこの人、刀持ってるし。
「信じない、と」菊治さんはメモにチェックを入れる。「では次、好きな映画のジャンルは何ですか?」
好きな映画……心理テストか? ますます菊治さんが何をしたいのか分からない。
映画ねぇ、んー、ミステリーとかかな。
「ミステリー、と。まぁ許容範囲かな」
聞き慣れない単語を、俺の耳は逃さなかった。許容範囲?
それ越えたら殺されるの? めっちゃ気になる。
「まぁ気にすんなや。たいしたことちゃうから。えー、では次」
こんな調子でいくつか質問され、菊治さんは満足そうにメモを閉じた。同時に俺もホッとする。どうやら許容範囲とやらは越えなかったらしい。
「よしよし、お前なかなかえーな。うん、やっぱり俺の眼に狂いはなかったんや」
やはりここは聞くべきだろう。菊治さんに満足されても、俺は不完全燃焼なだけだ。
「あの、今のテストっていうのは」
「これはな、適性検査やな。お前さんが、この物語の主人公に相応しいかどうかを、調べる為にあるんや。許容範囲を超えると、後々お前さんが敵になる可能性があるからの」
物語とか敵とか、またよく分からない方へ話が展開されていく。俺はさらにそれについて尋ねようとするのだが、
「ああ、今は分からんでいい。お前さんだって、犯人が分かった推理小説なんて読みたくないやろ?」と抑えられた。
そこでそのカードを使ってきたか!
まぁそんな小説、そこらの石ころより価値ないな、確かに。くそぅ、妙に納得できた自分が悔しい。
「さて、早速仕事をしてもらおうかの」
菊治さんは立ち上がり、個室のドアを開けた。
俺は迷いなく立ち上がった。警察に捕まるよりは、何かよく分からない仕事を手伝わされた方がよっぽどマシだと思ったからだ。
しかしこの選択が………という表現はありきたりなのでやめておく。