大魔法使いニコラス・レヴァンドフスキ
決算と出資金の拠出が終わった後、私は定期市を見て回ることにした。
初めて私がピラソンに来た時も、定期市が開かれていた。当時は緊張していて定期市をゆっくりみる余裕などなかったが、多種多様な商品が並んでおりとても楽しい。
地元の製塩業者は、今年採集した塩を売っている。塩には製塩者ギルドの基準によって定められた等級があり、高品質な塩は高値で取引される。
ピラソン周辺では鉄が採れないため、鉄製の道具は貴重だ。遠方から来た商人は、鉄製の道具や武器、魔法道具をピラソンで売り、ピラソンの塩を買って各地に塩を売り歩くのだ。
冒険者たちは、露店に並ぶ武器を見て回り、農民は鉄製の農具や調理道具を探しているようだ。
帝国の崩壊とともに、人間とドワーフの交流はほとんどなくなってしまったが、今年の定期市ではドワーフが作った武器も露店に並んでいる。なんでも、ドラゴンが住みついて、だれも立ち寄れなくなっていた帝国時代の要塞都市があったそうだが、紅の手という冒険者パーティーによりドラゴンが討伐され、都市が奪還されたという話だ。パーティーメンバーにはエルフがいるらしい。
都市内には、かつての帝国軍の武器庫があり、大量のドワーフ製の武器が見つかったそうだ。彼らの生産する金属は軽くて丈夫で、一部には魔法への耐性がある製品もあり、高値で取引されている。
私は、かつて杖を売った商人と話がしたく、魔法道具の露店が並ぶエリアにやってきた。探し回ったが、彼の店はないようだったので、立ち去ろうとしたところ、気になる人名が耳に入ってきた。
「うちには帝都で作られた特別な魔法道具があるよ。大魔法使い<ニコラス・レヴァンドフスキ>が書いた魔法教本があるよ。」
私の家族の名前は、男性がレヴァンドフスキ、女性がレヴァンドフスカだ。もしかして親族かなと思ったが、ニコラス・レヴァンドフスキという名前には聞き覚えがない。エルフではなく人間かもしれないので店主に話しかけてみた。
「すまない、ニコラス・レヴァンドフスキとはどんな人なんだ。」
「あんた、エルフだろう?なのにニコラス・レヴァンドフスキを知らないのか?不思議なこともあるもんだな。
ニコラス・レヴァンドフスキは、帝国の最盛期に帝都にやってきて、人間に魔法を教えた偉大なエルフの魔法使いだ。彼は、人間向けに魔法を教えるために、独自の魔法教育のメソッドを開発したんだ。今でも人間が魔法を学ぶ際は彼の作ったメソッドに従って魔法を習っている。多少の事情通なら誰だって知ってるぞ。」
エルフでレヴァンドフスキという名前なら、私の家系のエルフだろうか。
「ニコラス・レヴァンドフスキは、今どうしているか知っているか?」
エルフの寿命は長い。帝国の最盛期に活躍したとしても、今生きていても全くおかしくない。
「伝承によると、ニコラス・レヴァンドフスキは未来を見ることができるといわれるほどの偉大な魔法使いだったが、暗殺されたと言われている。帝国の衰退がはじまったのは、彼が暗殺されてすぐのことだ。」
家族からニコラス・レヴァンドフスキという親族がいるということは聞いたことがなかったため、全くの他人という可能性もある。それでも私は彼に強い興味を持った。
「ニコラス・レヴァンドフスキが書いた魔法教本を買いたい。いくらするんだ?」
「帝国金貨20枚だ。」少し高い気もしたが、私は彼の魔法教本を買うことにした。
当時は興味本位で読んでみようと思っていた程度で購入したのだが、この魔法教本は今後私の人生を大きく変えることになったのだ。