決算
季節は夏になり、冒険者ギルドの決算の日がやってきた。私が冒険者ギルドで働き始めてから、もう1年がたってしまったのかと感慨深い。街では定期市が開かれており、広場にはたくさんの露店が立ち並び、地元の住民や遠方から来た商人でにぎわっている。
決算の立ち会いのため、公証人のカルロ・コルツァー二がやってきた。決算はギルド会館の四階の金庫室で行われる。
かつて商館として使用されていたからもこの部屋は金庫室として使われていたようで、狭く長い直線の廊下の突き当たりにあり、扉はとても頑丈に作られている。この廊下には金庫室に入るための扉以外に扉はなく、廊下は金庫室にのみ通じている。
ギルドマスターのアントーニオさん、アンナさん、ルチアーノさん、公証人のカルロさん、そして私が揃うと早速、決算のために金庫内の貨幣の計算を始めた。
計算の結果、帝国金貨2,205枚であった。出資金額は、帝国金貨2,100枚だったため、ちょうど5%の利益が出たことになる。出資から半年が経過した時点では、赤字だったため非常に素晴らしい決算だ。公証人の前だから感情は抑えているが、出資者は全員大喜びであることが表情からわかる。
「それでは、契約に従い、2,205枚の帝国金貨を出資比率に応じて分配いたします。」公証人は、アントーニオさん、ルチアーノさん、アンナさん、私の順番に金貨を手渡した。私は、帝国金貨700枚を出資したので、帝国金貨735枚が手元に戻ってきた。
決算に続いて、来期の出資を行うことになった。出資比率は過年度と同一で、アントーニオさんと私が700枚、アンナさんが400枚、ルチアーノさんが300の帝国金貨を出資した。もちろん、ギルドマスターは全会一致でアントーニオさんに決定した。
決算と来期のための出資金の徴収が終わり公証人が帰ると、アントーニオさんが今回の決算についての振り返りを始めた。
「宿屋をオープンできたことが好決算の一番の要因だ。遠隔地貿易をする商人を中心に利用客が多く収益が大きかった。宿屋を開業できたのはみんなのおかげだ。ありがとう。
特に、エミーリエ、君がいなければオークの拠点を見つけることはできず、宿屋の開業はできなかっただろう。本当にありがとう。」
アントーニオさんが私に向かって拍手を始めると、アンナさん、ルチアーノさんも私に拍手を始めた。
「エミーリエさんには、筆記魔法でギルドのマニュアルや、依頼の受付時のヒアリングシートを作ってくれて、受付業務はとても改善されたわ。あなたが冒険者ギルドで働いてくれて、私たちは本当に感謝しているのよ。」アンナさんにも褒められ少し照れくさい気持ちになった。
「アントーニオさん、ルチアーノさん、アンナさん、本当にありがとう。私は、エルフの国に居場所がなく、半ば追放されるような形でこの街にやってきた。どこにも行く当てのない私だったが、冒険者ギルドに誘ってもらったことで、仕事だけでなく、一緒に働く同僚や居場所も見つけることができた。本当に感謝している。これからもよろしく。」
私は、エルフの国を追放されて人間の街にやってきたことを誰にも話したことはなかったが、ギルドの職員から信頼されている、居場所があるという安心感を得たことで、少しだけではあるが、やっと過去のことを話す決心がついた。
私たちは、出資者という関係で、利害関係でつながっている。それでも私は、アントーニオさん、ルチアーノさん、アンナさんのことを同僚として信頼しているし、この1年頑張って働いたことで、みんなからの信頼を得ることができたと思う。私の筆記魔法も仕事の役に立つし、感謝されることもわかった。
屋敷の書庫に引きこもり、隠れるように生きていた私は、ついに冒険者ギルドに居場所を見つけることができたのである。