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オークが拠点としていた荘園は、無事、宿屋に改修することができた。
宿屋の客入りは期待以上によかった。開業前に冒険者向けに案内していたこともあって、街道警護の依頼を受けた冒険者が、商人に宿屋を使うように促してくれたのだ。私たちの冒険者ギルドに登録している冒険者には、宿泊料を値引きしていることもよかったのだろう。
宿屋は最低限の寝場所を用意してているだけなので、維持コストは非常に安く、利益は大きい。
今日は、宿屋に常駐しているルチアーノさんが冒険者ギルドに帰ってきて、状況を共有してくれた。
「利用客には調理場を貸し出し、自炊させているが、何人かの商人に話を聞くと飲食店があれば利用したいという声もあった。酒なんかも需要があると思う。」ルチアーノさんは、早く飲食店を開業したくてたまらないようだ。
「将来的には飲食店を開いてもいいが、建物を改修して、職員を雇い、食材をピラソン周辺で購入して宿屋まで運ぶのはコストも高そうだな。」ギルドマスターのアントーニオさんはいつも冷静で現実的だ。
「旅の途中で蹄鉄や馬車が壊れたり、食料が不足していたりと、備品の購入や修理、食料の購入を希望している商人が多かった。物販の販売ならあまり初期費用をかけずに開始できると思う。」ルチアーノさんは宿屋で受付をする際に、商人に困り事を聞いているとのことだ。
「初期費用の安さなら食料の販売がいいんじゃないかしら。土地はあるから、ニワトリを飼って卵を販売したり、根菜や豆類など比較的手間のかからず、長期保存が可能な野菜を育てて販売したりするのがいいと思う。食料が安定して生産できるようになれば、飲食店を開くことにもつながるわ。」
アンナさんの意見で、私たちは荘園の跡地で野菜の栽培とニワトリの飼育をすることになった。
ピラソンがある沿岸地方は5月ごろからだんだんと日差しが強く、乾燥した気候になる。そのため、塩作りのシーズンは5月から始まり、塩の採集のピークは真夏だ。
各地からピラソンに商人がやってくるのは真夏なので、宿屋の繁忙期はまだ数ヶ月先ではあるが、日によっては宿屋がほぼ満室になってしまうことがあるそうだ。
繁忙期に向けて建物の改修を行うことになり、私はアンナさんと協力してシーツや枕カバーなどを縫うことになった。
今後の宿屋の経営の方針が決まり会議が終わった後、アンナさんがルチアーノさんに声をかけ、話し込んでるのを見かけた。宿屋には冒険者や商人が集まるため情報も集まる。彼女はさまよえる黒狼についての情報がないかルチアーノさんに聞いているのだろう。