完全試合
オーク討伐に参加するのは、「ベルモントの魔術師」、「深紅の盾」、「さまよえる黒狼」の3つの冒険者パーティーだ。彼らはピラソンでも有名な冒険者パーティで、実力は折り紙付きである。
「ベルモントの魔術師」はリーダーのポーシャをはじめ、メンバー全員が魔法使いの珍しい冒険者パーティだ。攻撃魔法が得意な魔法使い、回復魔法が得意な魔法使いなどメンバーによって得意な魔法が異なるようだ。
「深紅の盾」は、リーダーのバサーリオは剣士で、メンバーには魔法使い、弓使い、斧使いがおりバランスのよいメンバーで構成されている。
「さまよえる黒狼」は、リーダーはシャイロックで構成メンバーは弓使い、猟師などがいるそうだが、メンバーは素性を隠しており、シャイロック以外のメンバーについては名前も素顔も正確な人数すらわからないのである。
私はルチアーノさん、アンナさんと共に、近くの森で戦いの様子をうかがうことになった。
オークがいるエリアは荘園の中でも小高い場所で周囲は石垣と塀で囲まれており、出入り口は2か所のみだ。作戦はいたってシンプルで、「さまよえる黒狼」のメンバーが荘園内に忍び込んで火を放ち、火にあぶられて出てきたオークを「ベルモントの魔術師」と「深紅の盾」が倒すというものだった。冒険者パーティーは基本的には他のパーティーを信用しておらず、連携も取りにくいため、それぞれの持ち場を明確に分ける方針にしたそうだ。
襲撃は夜明けとともに始まった。
真っ黒の服とフード、マスクをした「さまよえる黒狼」のメンバーは、カギ縄を塀にかけると縄を伝ってするすると塀に上った。
リーダーの合図とともに、一斉に発煙筒を投げむと、彼らは煙に紛れながらオークが住むテントや荘園の建物に次々と火を放って行った。彼らは陶器性の小さなツボの中に可燃性の液体を入れた武器を持っており、容器が割れて中の液体が広がると、またたくまに燃え上がるのであった。
煙には強い刺激作用があるようで、森の中で見守る私たちのもとにも刺激臭が漂ってきたので急いで布で顔を覆った。突然の襲撃におそらくオークたちはなすすべもないだろう。
主要な建物や多くのテントに火を放ち、消火が不可能な状態になったことを確認すると、彼らは第二フェーズに移行した。建物の屋根など高い場所に陣取り、慌てふためくオークたちを弓で狩り始めたのだ。彼らが使う弓は小さく射程は短いが取り回しがよく、移動時にも邪魔にならない様で頻繁に移動を繰り返しオークを翻弄している。また矢には毒が塗られているようで、致命傷にならないような傷を負ったオークもしばらくすると倒れていった。
オークも弓を使うが、「さまよえる黒狼」のメンバーは飛び道具を使うオークを優先して攻撃しており、また刺激作用のある煙でせき込んでいるオークも多く、オークは手も足も出ないといった状況だ。
炎と煙にあぶられ、また弓で一方的に射られたオークは、次々と2つの出口に向かって殺到した。
出口に待ち構えるのは、「ベルモントの魔術師」と「深紅の盾」である。「ベルモントの魔術師」のメンバーの一人が水魔法をオークの足元に放ち、その水を別の魔法使いが凍らせて動きを封じると、攻撃魔法で順番にオークを倒していった。
「深紅の盾」は剣士と斧使いがオークと戦い、魔法深いと弓使いが援護する戦い方で、正攻法の戦い方をしていた。
「さまよえる黒狼」のメンバーは、炎で建物が崩れ落ちそうになると素早く撤収して、塀の上に移動し、引き続き弓でオークを狩っていった。飛び道具を使うオークを大方片づけると、オークの中でも周りのオークに指示を出し士気を高めるような有力なオークを優先して狙っているようだ。
1時間ほどですべてのオークを打ち取ることに成功した。冒険者側は負傷したメンバーもいるようだが、すべて軽傷のようで死者はゼロだ。逃げ出すことに成功したオークはおらず、この戦いは完全に冒険者側の勝利で終わったのである。