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アンナ・ブランシャールの場合

 私はギルドの業務の終了後、アンナさんにギルドの収支改善案を相談しようと考え、彼女の執務室に向かった。ギルドが使用している建物は、かつては大規模な商会が使用していたこともあり、部屋がたくさんある。現在では使用していない部屋も多いが、彼女の執務室は3階だ。


 執務室の扉は少し開いていたので、入りますよと声をかけ部屋に入ったが、蠟燭の明かりに照らされたアンナさんの顔には涙が浮かんでいることに気づき、急ぎで扉を閉じて部屋を出ようとした。

 いつもは朗らかで明るいアンナさんが、椅子に深く座りどこか遠くを見るような表情で涙を浮かべていることに驚き動揺した。何かあったのだろう。今はそっとしておいたほうがよさそうだと思った。


 「ごめんなさい、いいの。入って。私に話があるんでしょう。」アンナさんに呼び止められた私は、恐る恐る扉を開けアンナさんの様子を伺った。


アンナさんは、「エミーリエさん、少し付き合っていただけますか?」と言いながら、果実酒を蒸留して作られた酒の入った小さな樽を取り出した。




しばらくの間、私たちは無言で酒を飲んでいた。エルフはアルコールへの強い耐性があり人間のように酒に酔うことはないが、高いアルコール度数の酒にはあまり慣れない。


「エミーリエさん、ごめんなさいね、変なところを見せてしまって。私ね、この冒険者ギルドがなくなったら、どこにも行く場所がないの。」アンナさんは未亡人だが貴族出身と聞いていたので、この発言は少し意外だった。


過去を詮索しないのがこの世界のマナーだ。だから彼女とは半年以上、一緒に仕事をしているが、彼女の過去については、自己紹介の際に聞いた、貴族の生まれで夫と死別しているということ以外に何も知らなかった。


「私は夫と死別した後、夫と経営していた荘園の経営権を売って、実家 ブランシャール家の領地がある西部地方に向かったの。西部地方はこのあたりよりも治安が悪いしとても長い旅路だったわ。


ようやく故郷についた私は何を見たと思う?私が生まれ育った城は焼け落ちていて、子供の頃に駆け回って遊んだ庭には簡単に作られた親兄弟、親族の墓が建てられていたのよ。そんなことってある?

後で聞いた話では、敵対する貴族に雇われた冒険者パーティーに襲われ親族は全員殺されたそうよ。しばらくは立ち直れなかった。」彼女は、一気に酒を飲みほした。


「生きる気力を失っていた私は、実家近くの街の宿屋で廃人のようになっていたのだけど、襲撃を生き残った私の家の家臣が訪ねてきたの。彼から実家を襲撃した冒険者パーティーの情報を手に入れることができたわ。」この辺りでは、人間を襲うような汚い仕事を受ける冒険者はいないが、西部地方や北部ではよくある話だそうだ。


「家族を殺した冒険者を全員見つけ出して絶対に復讐を果たすわ。これが夫も家族も領地もすべて失ったブランシャール家唯一の生き残りである私の使命なの。


犯罪行為に手を染めた冒険者パーティーは別の地方に活動拠点を移したり、しばらくの間活動を休止することが多いからもちろん彼らを見つけるのは簡単ではないわ。どう探そうか迷っているところに、彼らは沿岸地方に向かったという噂を聞いてピラソンまでやってきたわけ。


冒険者を探すには、冒険者ギルドほどいい場所はない。私が冒険者ギルドで働く理由は、家族を殺した冒険者を見つけて復讐するためだわ。」アンナさんは空になったコップを両手で強く握りしめている。



「だからね、冒険者ギルドが廃業してしまったらとっても困るの。

エミーリエさん、詮索するつもりはないけどあなたも相当な訳ありでしょ。聞かなくてもあなたを見ていれば、ほかに行く当てがないことくらいわかるわ。何としてもギルドの収支を改善してギルドを存続させましょ。」



彼女は不敵な笑みを浮かべると、私のコップを手に取り、残っていた酒を飲みほしてしまった。

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