交渉
ピラソンの主要産業は製塩業である。ピラソンの製塩業者は、海岸沿いに地面を突き固めて塩田を作り、そこに海水を引き込んで、太陽光と風で乾燥させ塩を作っている。この方法は、帝国の最盛期の頃には確立されていたらしい。ピラソン周辺は夏は乾燥し、冬は雨の多い気候であるため、夏が塩の採集の繁忙期である。
塩田で採集された塩は、ピラソンに運ばれた後、市場で売られる。同じピラソン周辺でとれた塩でも品質の差は大きく、高品質な塩はかなりの高値で取引される。塩を買うのは主に遠隔地貿易を行う商人だ。ピラソンを拠点にしている商人も、他の都市から塩を求めてピラソンに来る商人もいる。
他の都市から来る商人は、金属製品・魔法道具などピラソンではほとんど生産されていない商品をもってピラソンに来る。商品をピラソンで売った後、塩を買って帰るのである。
オークの拠点の拠点を発見した後、オーク討伐のための遠征隊を組織することになったのだが、だれが資金を出すかでひと悶着あった。
オークの襲撃で直接的な影響を受けるのは遠隔地貿易を行う商人である。街道の安全が確保されていないと商売に大きな支障がでる。冒険者による護衛をつけないで他の都市に向かった商人が襲われたという話も増えている。
また塩はすでに述べたようにピラソンの主要な輸出品だ。輸出ができなくなればもちろん製塩業者も困窮する。製塩業者といってもほとんどが家族で経営している小さな業者が多く、塩価格が下落はかなりの打撃だろう。
もちろん、ピラソンを中心に活動する冒険者も打撃を受ける。主な依頼主である商人や製塩業者が経済的に困窮すれば依頼も減る。また、オークと戦うことができないスキルの低い冒険者は、以前は難易度の高くなかった街道警護などの依頼を引き受けられなくなり、受けられる依頼が減ってしまう。もちろん、依頼の受付料や手数料を主たる収入源とする冒険者ギルドも打撃を受ける。
このようにピラソン全体の問題であったが、だれがどのような割合で金を出すのかはやはり難しい問題であった。この問題をうまくまとめてくれたのはギルドマスターのアントーニオさんだ。
アントーニオさんは自ら、隠密行動に優れる冒険者パーティーに依頼を行い、オークの目撃証言を集めて割り出したオークの拠点を偵察してもらい、おおよそのオークの数や装備などの情報を事前に集めた。また、オークの拠点を制圧できるほどの腕がたついくつかの冒険者パーティーに声をかけ、事前収集した情報を提供して、資金が集まったら依頼を引き受けてくれることを確約してもらった。
その後アントーニオさんは、主要な商人や製塩業者、荘園の経営者にオーク討伐のための資金を出してくれるように交渉を行った。最終的には資金を出してもらうことを確約してもらったが、交渉の中で我々冒険者ギルドも譲歩を迫られ、今回の依頼については、依頼の受付料、冒険者への報酬から差し引く手数料を一切取らないことになった。つまり冒険者ギルドの利益はゼロだ。
ただし、受付料・手数料を取らない代わりに、オークが拠点にしている打ち捨てられた荘園は、オーク討伐後、私たちの冒険者ギルドが所有することになった。打ち捨てられた荘園など普通は誰も欲しがらないが、アントーニオさん、アンナさん、ルチアーノさん、そして私は、この荘園を活用できるのではないかと考えたのだ。