えき前で待ち合わせ
待ち合わせは駅前のいつもの場所で。
彼のメッセージに、了解と返信する。
いつもと変わらない日常、いつもと変わらない彼と、いつもと変わらない駅前で待ち合わせ。
私たちの待ち合わせ場所はいつもそう。
駅前の時計台の後ろ。
そこで待ち合わせをする。
始まりは小学校を卒業して、私立の中高一貫校に進学してからのこと。
お母さんが一人で電車に乗るのは危ないからと、隣の家の彼と一緒に登校している。
そして、遊びに行く時もそう。
学校行く時は待ち合わせの連絡なんてしないけど、二人で遊ぶときはそうだ。
「ごめん、待ったよね」
彼が少し息を切らせながら走ってきた。
ううん。私も今来たところ。
そう言って、二人で歩き出す。 本当は30分前には来てたんだけど、それは内緒。
水族館、楽しみだね!
いつもの待ち合わせが始まってはや3年。
遠出をするために待ち合わせをするのは初めてだ。
このまま街の方向に進むわけでもなく、駅の中に入り改札を通る。
学校以外で電車を使うのも久しぶりかも知れない。
いつもと違う方面の電車に乗り込む。座席はすでにいっぱいで、彼と他愛のない話をしながら目的地を目指す。
少し揺れる車内で、吊り革に捕まる彼とドア付近の手すりに捕まる私。
側から見たら、カップルに見えないかな。ただの友達同士にしか、見えないかな。
彼はどう思っているのだろう。私のこと。
不安で、怖くて、でも気になって仕方がない。
だけど、そんな気持ちとは裏腹に、この関係のまま何も変わらず彼と過ごせたらいいとも思う。
これから先も、気持ちを伝えることもなく、名前のない私たちの関係を続けていきたい。
それだけで私は幸せだ。
そうずっと言い聞かせてきた。これから先も自分の気持ちを騙して過ごすつもりだった。
つもりだったのに、どうして君は正直に教えてくれるのかな。
君の気持ちを、私はどう受け止めればいいのかな。
君が正直な気持ちを伝えてくれたのは水族館の帰り道。
お土産屋さんで買ったイルカのキーホルダーを眺めながら
また行こうね、なんて話をしていた時のことだ。
「また、行ってくれるのか」
当たり前じゃん。今日も楽しかったし。なんて、
私にとって当たり前の言葉は、
君にとっては特別な言葉だったんだね。
返事はその場ではできなかった。
それどころか、あの日から駅前のあの場所にも気まずくて行けていなかった。
学校にも一人で行くようになり、君と電車に乗ることも無くなった。
クラスが違うから尚更、会う機会は自然と減っていった。
このままではいけないと思いつつも、どうしたらいいかわからなかった。
ねぇ、最近学校間に合ってるの
いつも通りの朝。 お母さんから身に覚えのない言葉を受けた。
当たり前じゃん。何時に家出てると思っているの。
そういって、理由を尋ねると不思議そうにお母さんが言葉を連ねた。
最近、毎日遅刻してくるって学校から連絡があったそうなの。そう、お隣の……
ハッとした。
急いで支度をして、走って家を出た。
私はバカだ。自分だけ、自分を守って。傷つきたくないからって、君のことを避けて。
君はどうして、そんな私をいつまでも待ってくれるの。
私たちのいつもの待ち合わせの場所。
彼はもう、そこにいた。
彼が待ってくれる理由。その理由に私も正直にならないと。
私に気づいた君は、照れくさそうな顔をしてこちらを見つめてくれる。
私は彼の前で膝に手をつけて荒い呼吸を続ける。
彼が何か言おうとするのも、待ってって、手で合図する。
この再会は私の言葉で始めさせて。そして、君と新しい関係を始めさせて。
深く呼吸をして、心臓を落ちつかせる。
そして、君の目を見て私は応える。
「私も」