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あと少しの幸せ
2月の夕方。
冷たい風が肌を擦りつける。
「今日、いつもより寒いね」
指先が赤く染まる。息を吹きかけ、温めてそっと手を合わせる。
彼の手はどうだろう。そっと目を向けるが、ずっとポッケに入れたままだった。
その手、繋げたらもっと温かい気持ちになれるよ。
そんな声かけができたら、どんなに幸せかな。
彼との帰り道。ただ家が隣で、ただ幼馴染なだけで、ただそれだけ。特別なことは何もない。
何もないけど、特別な何かになれたらいいなって、
思ってた。
そんな時期もあったよ。
今日も、一緒に帰ってくれてありがとう。
卒業したら、一緒に帰れなくなるから。
この幸せを卒業までは噛み締めさせて。
この幸せのまま私を諦めさせて。