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紙呪〜shisyu〜 その20

*** はなちるさと・大波 武 ***


その沈黙を破ったのは若月(わかつき)

「それで、あなたのご両親はどうするの?」

若月の質問に、(いさご)は顔を(れい)に向けて言った。

「なんとかしてよ、礼ちゃん」

「お前なぁ……いや、でも仕方ないか」

小さなため息が礼から漏れた。

「とりあえず、伯父さんと会ってどうしたいのか、確認して対応するから少し時間をくれ」

「うん。信じてるよ」

「重い……」

げんなりした顔の礼。しかしそのまま口を開く。

「お前はどうしたいんだ、沙。戻るのか、安堂寺(あんどうじ)に」

「ん〜、そのつもりだったけど」

にっと笑った沙。

「やめた」

ふっと笑ったのは礼。

「一応聞いてやる。お前の案は?」

「えー、言いたい事分かってんのに聞くの?」

「声に出して言うまでが、お前の作戦だろ」

肩を竦めた沙は、香奈(かな)の顔を覗き込む。

「ずっと泣きそうな顔しちゃって、可愛い」

ぽん、と頭に手を置くと、くしゃっと撫でて礼を見た。

「こんな状態の香奈を放って実家に帰るなんて出来ないよね。両親のことは気がかりだけど、好きな女の子には勝てなかったって事で」

「その気がかりを今、オレに丸投げしただろう」

礼の言葉に答える気がないのか、沙は無反応のまま続ける。

「退去の取り消しできるかな?ま、住むところくらいなんとかなるか。あとは職だよね」

礼を見たり、天井を見たりしながら、あれこれ呟いていた沙。時間稼ぎのパフォーマンスを終えると、顔を正面に固定し、じっと若月の目を見つめることしばし。ややして明朗な声が店内に響く。

「僕を雇ってくれませんか」

きょとんとした顔の若月に、沙は笑顔を向けた。

「この店の役に立ってみせます」

「それは、能力者として?それとも……」

「僕の持っている能力は、すべてこの店のために使ってください。礼ちゃんほどではないけど、能力者としてはそこそこ使えるほうだと思いますし、営業マンとしては誰よりも優秀ですよ」

「まあ、営業!」

「ここのエースになってみせます」

はっと口元に手を当てた若月。しばし考えてから指を鳴らした。

「それ、採用するわ」

「やった。僕、採用?」

「あ、違うのよ。いえ、でもいいわ、それでも」

「?」

笑みを浮かべた若月に、疑問顔の沙。

「礼はどうなの?沙ちゃんがここの一員になるのは」

「構わない。ただし一度、あいつと会うぞ。決着はつけないとな」

沙は黙って頷き、若月に顔を戻した。

「僕、使ってもらえます?」

ねだる様な瞳で若月を見てくる沙に、苦笑しながら頷く。

「いいわ、正式採用よ。(たける)

しばらく蚊帳(かや)の外だった武は、突然名を呼ばれて慌てた。

「はいっす!」

「階級、決めたわ。これで行くわよ」

若月はガラスの箱に手をかけ、金の封を切った。

中からハートのチャームを出して見せる。

武は勢いよく返事したものの、首を傾げて何も言えないでいた。

「ハートとかスペードとか、ですか?」

言葉の出ない武の代わりに、香奈から質問が飛ぶ。

「それは、今後組織が大きくなったら考えるわ。もっと単純に数字で階級を示す。頂点にエース、末端をデュースにするわ」

「トランプ!なるほどっす」

武が拳を掌に打ち付けて、納得の顔を見せる。

「ドのシャープじゃなくてよかったよ」

ぼそっと言った礼の言葉に、苦笑する若月と気まずそうな武。沙と香奈は何のことか分からず顔を見合わせる。

「エースは礼さんっすね」

武がそう言うと、沙から不満の声が上がる。

「やだよそんなの。キングからエースが果てし無いじゃん。届きそうな目標なら燃えるけど、絶対に届かない目標なんてやる気削がれるよ」

「礼とあたしは無階級でいいわ。そもそも礼は委託だし、別組織でいいわね」

若月の言葉に頷いた礼を見た沙は、納得の頷きをして言った。

「よかった。神宝の当主格と比較されちゃ堪んないもんね。魂なんて見えないし」

安心したような顔を見ながら、礼が話を蒸し返す。

「当主が基準なら、お前も外れないか?」

「なんでさ」

「オレが死んだらお前が当主だろうから」

「は?なにそれ。游兄(ゆうにい)が当主代理やってんでしょ?礼ちゃんに何かあったら時期当主は游兄じゃないの」

2人の問答に若月が割って入る。

「あたし達、外しましょうか?」

沙は迷ったように瞳を動かしたが、礼がすぐに首を横に振って言った。

「いや、いい。若月はすでに知っている事だし、沙はいい機会だから知っておいた方がいい。香奈も沙と共に歩くのなら、覚悟しておかないと」

香奈は傷付けばいいのか、同意すればいいのか分からないような顔をしている。ただ、小さく頷いて答えとしたようだ。

「武は他言無用でお願いね」

「は、はいっ、す」

ごくんと、喉を鳴らした武。礼は静かに口を開いた。

「神宝十家門の中でも、安堂寺(あんどうじ)瓊樹(たまき)は特殊な関係にある。そもそも瓊樹は、安堂寺、(つるぎ)加賀美(かがみ)が対立しないよう、もしくは癒着しないよう、監視する役目をおっている。ゆえに、どこかの1家と関係を深くする事は、遠い昔からの禁忌だった」

武は礼と若月を交互に見た。この状況がいかに特殊であるのか、理解しようと真剣な顔で聞く。

「香奈ちゃんのために少し詳しく説明するわね。安堂寺は突出した能力者の家系で、簡単に説明すると幅広く、オールマイティな能力者が多いの。他の家は特徴的で、瓊樹は結界、加賀美が呪術、剱は祓う力に突出しているわ」

香奈は無言で頷き、若月がさらに続ける。

「他家は分からないけど、瓊樹では現当主が時期当主を指名するの。聞いた話では剣は実力主義で一番祓う能力の高い者、加賀美は呪術に長けている者と聞いたわ。嫡男であるとか、血筋も関係しているらしいけど、他家の選定基準は分からない。でも安堂寺は……」

沙が少し焦ったように口を挟む。

「ちょっとまって。安堂寺だって指名でしょ。現に礼ちゃんが游兄を指名して……」

若月は否定の動作をとり、沙は唖然として声を詰まらせた。

「そんな優れた血筋の安堂寺は、その代償で短命だと言われていたの。でも、その原因が呪いであると分かった。明治の頃よ」

「なに、それ。僕、初耳なんだけど」

沙の呟きに礼が答える。

「本家でも一部の人間しか知らない。安堂寺は呪われた者が当主になる。この呪いは、安堂寺の中で一番能力の高い者に引き継がれていく性質があるんだ」

「え、それで代々早死になの?じゃあ、礼ちゃんが呪われてるのって……」

沙の声に頷いた礼。静かな口調で言った。

「親父が死んだ時に、オレに呪いが移ってきた」

「早世の呪いってヤツっすか」

ふいに武の声がして、全員が注目する。

「最初に香奈さんが来た時に言ってたやつっすよね。オーナーが留めてるって呪い」

「そうよ。それこそ、会合の議題で紛糾らしいわよ。ま、人道的な配慮から、一応は認められて現在に至るってわけ。礼の呪いは、あたしが保護して留めている状態よ。定期的にメンテナンスが必要だけど」

「それが、礼ちゃんに何かあったら僕に?游兄は?」

沙の呟きのような質問に答える礼。

「昔は大差なかったはずだけど、沙。お前は今、游より力が増していると思う。安堂寺を離れて修行もしていなかったのに、たいしたもんだな」

「呪いの対象になってるなら嬉しくないんだけど。あ、でも僕、今は海秋(うみあき)だよ。母さんが安堂寺に戻っても、僕は海秋のままでいるからね」

腕を組んで、鼻息荒く言った沙に、礼は首を横に振る。

「安堂寺を離れようとも、オレが死んで呪いが移れば、時期当主は沙、お前だ。オレが游を指名しようが、お前が拒否しようが関係なくなる」

「なにそれ。理不尽すぎない?」

礼の言葉に、沙は不満を漏らして若月を見る。

「やっぱり、僕ここにいなきゃ」

そう言うと香奈を見る。

「香奈と一緒に年取って、ちょっと田舎に家建てて、子供も孫も送り出して、縁側に座って緑茶啜るんだ。なあばあさんや、幸せな一生だったな、なんて言いながら余生を送るんだ。安堂寺の当主なんてごめんだね。それに礼ちゃんにたどり着くまで果てしない差があるのは変わらないし」

真剣な顔でそう言った後、にっこり笑って礼に顔を向ける沙。

「だから礼ちゃん、早く解呪(かいじゅ)してよ。僕にそんなの移っちゃったら即死じゃん。過去最高の能力者でしょ」

「過去最高はオレじゃない。本当に凄かったのはオ……」

「礼!」

遮るような若月の鋭い声に、武の肩が跳ねた。

気まずそうな顔の礼。眉間に掛かった巻毛を指で弾くと再び口を開く。

「過去最高でもないし、簡単に言うな」

溜息混じりの礼。沙は首を傾げたが、そのまま話しを続けるように礼を指差す。

「とりあえず死なないでね。あ、呪いも手放さないように」

言葉もなく沙を見る礼。

「じゃ、じゃあ……」

香奈がおずおずと口を開く。

「エースは誰が?」

若月はしばし考え、首を横に振った。

「ひとまずエース不在でいこうかしら。全員デュースからスタートよ」

武、沙、香奈は同時に頷いた。

「それじゃあ、決まりね。礼と沙ちゃんはいつ決着つけに行くの?」

若月がそう尋ねると、礼は沙を見て言った。

「次の土曜はどうだ?」

「いいよ。思いっきり文句言ってやろう」

それなら、と若月が言う。

「翌日の日曜に解決編ね。香奈ちゃん、声がけお願いできるかしら」

「佐間さんですね。ここに連れてきたらいいでしょうか」

「そうね。お願いするわ」

そうして次の予定が決まったところで散開となった。

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