第四話 誠の日常
「・・ってことがあったのよ~。」
やれやれといった様子で目の前の金髪の女性が語ったのは、元の世界で教師だった男とその取り巻きの末路。
結局、巻き上げられたお金は帰ってこないばかりか、それで購入した装備も死体が装着したまま。
他のクラスメートは、早々にあきらめてモンスターを狩るもの、これは夢だと何もしないもの、様々居たそうだが、帰ってきた取り巻きたちからことの顛末を聞いて、それぞれの行く道を決めたらしい。
モンスターを狩っていたものはそのまま冒険者となり、これは夢だと思っていたものはようやく現実を受け止め、モンスターを狩っていたものに合流してパーティを組んだり、肉体労働の日雇いなどで取り合えずその日暮らしを選択するものなどそれぞれに分かれたようだった。
「でも、これって半月前の話よ?何で今更聞いたの?」
金髪の女性、ギルド受付のカナリアに尋ねられ、誠は少し恥ずかしそうにしながら、
「初心者教習に参加したのはお伝えしましたよね。」と前置きしつつ、
「実はその後、”赤の牙”に行っていたんです。」
カナリアは思わず口元に手を当てて
「”赤の牙”・・・レッドキャップの里に!?」
〇〇の牙と言えば、ゴブリン族の隠れ里を指す言葉で、中でも赤の牙はゴブリン族の超エリートであるレッドキャップの根城として名高い。
「はは・・・。やっぱりそういう反応になるんですね。」
カナリアの反応に対して、誠の反応はやや重い。
それも当然ではある。
元の世界では、ゴブリンと言えば狩られる対象であり、残忍な亜人種であり、女性の天敵であったのだ。
何冊の凌辱同人誌が作られていたことか。
逆に話の通じる人類種として描かれることはまずない。
喋れても片言で、人間に対する強い殺意と女性に対する強い性欲をむき出しにすることがほとんどだ。
※これらの意見には誠の偏見が大いに含まれています。
「そういうって・・・、あ、ごめんなさい。誠君は転移者だったわね。」
ちょっとムッとした表情になりかけて、すぐにそれを改めるカナリア。
流石ギルドの受付嬢というところか。
それに、すぐに気づいて反応を変えるところからすると、ほとんどの転移者が同じような偏見をゴブリン種に対して持っていたのだろう。
「いえ、元の世界の偏見を持ち込んだ僕が悪いんですよ。」
恥ずかしそうに笑いつつ、手を振ってカナリアの謝罪を受ける誠。
「それに、そういうことについては嫌というほどサロンに教育されましたので。」
頬をかきながらそう言う誠に、
「サロン・・・?冒険者登録の時に聞いた記憶があるわ。ゴブリン族の方だったかしら。」
カナリアが顎に手を当てて考えるそぶりをすると、
「そうです。初心者研修で一緒になりまして。」
はははと苦笑いをする誠。
脳裏に浮かぶのは自分の心無い一言に激怒するゴブリン族の期待のホープサロンの顔。
流石に暴力沙汰にはならなかったものの、自身の偏見と勉強不足を徹底的に叩き直されたのだった。
日中は冒険者としての基礎を教官によって叩き込まれ、夜はサロンによるゴブリン族の歴史を座学で叩き込まれる日々。
誠は絶対に自信の偏見を口にしないと誓うのだった。