第一話 運の無い高校生
異世界転生。
異世界転移。
どちらも最近のアニメなどで有名なジャンルで、魂だけ移動するか、体ごと移動するかの違いはあれど、何らかの手段でチートを持って異世界に移動することだけは共通している。
そう、チートを持って。
では、そのチートが無かったら?
行き来自由ということもなく、着の身着のままで異世界に放り出されたら?
これはそんな運の無い高校生の物語である。
絹田誠は、伝統大学付属高校の2年生で引きこもりのオタクだった。
引きこもりの理由はよくある酷い話で、アニメが好きで、陰キャで、苗字が絹田だったから。
同じクラスの陽キャに、苗字をもじってキモオタとあだ名をつけられたときに、彼の運命は決まったのかもしれない。
そのあとは、暴力や金銭まではいかないものの、いじめにあい引きこもりとなったのだった。
その日、彼が珍しく登校していたのは、2年になっても登校しない彼をクラスの担任が呼び出したから。
その理由も実に下らなく、いじめ問題の解決、であった。
勿論、担任に突っ込んだ話をするつもりなどなく、親に向けた解決しようとしてますよアピールである。
そもそもいじめは1年の担任の時から始まっており、2年から担任になった自分には関係ないというのが偽らざる本音だった。
そんなアピールで登校させられる方はたまったものではなかったが。
まあ、そんな教師だから罰が当たったのかもしれない。
重すぎる罰が。
最後の登校日から1か月がたった。
誠は、中世ヨーロッパのような街並みの、ゲームなどでよくある石畳の道を歩き、石造りの建物の間を目的地に向かって進む。
空はまだ暗く、元の世界ではまだ寝ているころだが、町はすでに起きていた。
あの日、誠が自分のクラスの扉を開いた瞬間、目の前は光に包まれた。
思わず目をつむり、右手で目を覆い隠さなければならないほど、光は強かった。
しばらくして、視界に光を感じなくなった後、恐る恐る右手をどかし、目を開いてみると。
目の前にはあまり手入れのされていないステンドグラスがあり、そこがさびれた教会だとわかった。
まだ慣れない目で周りを見ると、知った顔がちらほら。
目を覚ましていない1年の時同じクラスだった生徒だった。
思わず隠れた。
いじめから逃れたいという本能的なものだったが、結果的にはこれが功を奏した。
目を慣らしながら、激しい鼓動を抑えつつ、今の状況を考える。
どう考えてもここは学校ではない。
これが幻覚などでないのならば、・・・異世界転移?
まさか。ありえない。なら、どっきりか?
周りを見回し、それもないと誠は思う。
協会はセットとは思えないほどしっかりしており、椅子や床のしみついた汚れが年月を物語っている。
そもそも、そんなことをする理由がない。
引きこもりのオタクをハメて何になるというのか。
そこまで考えが至ると、ううと呻く声が聞こえた。
気絶していたクラスメートが目を覚まし始めたのだ。
目を覚ましたのは誠が一番だったらしく、その後、続々とクラスメートが目を覚ますも誠を探す者はいなかった。
引きこもりだから。いない奴だから。
だから探されない。
今日登校することを知っているのは担任だけであり、その担任は誠が教室のドアを開けたときすでにまばゆい光で目がくらんでいた。
つまり、誠がここに来ていることを知っているのは誰もいないのだ。
ただ、このままだとこれは不利益につながる。
ここが別の世界だとして、異邦人が歓迎されるか分からない。
というか、そもそも日本語が通じるかどうかも分からない。
こんな状態で一人でいるのはかなり危険だ。
いじめられっ子といじめっ子という関係とはいえ、同郷というアドバンテージがある。
唯一日本語が通じる相手なのかもしれないのだ。
しかし。と誠は思う。
誠はクラスメートの前に姿を現す気にならなかった。
嫌な予感がするのだ。
そしてそれは、クラスメートにとって最悪な形で合っていた。