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いわゆるセオドアのお部屋に行くまでの回
少し長くなりました。
久しぶりの王宮は相変わらず多くの人々が忙しそうに動いていた。
本来ならば傅かれながらセオドア王子の部屋まで案内される立場だが、今回は父親の小間使いとして後をついていく。色々な人に挨拶をする父親の許可がでるまでずっと頭を下げているミシェルを背中で感じながらセオドア王子の居場所を近くの文官に確認する。
すると、二人の文官が気遣うようにアイコンタクトをする。
その態度が気に入らなかったミシェルの父親は
「どうしたのかな?婚約者の父親の面会は難しいのかな?」
と珍しく高圧的な態度で質問していた。
カエデはへぇ~ミシェルパパってこんな対応もするんだなぁ~と思いながらそのやりとりを頭を下げながら聞いていると。
遠くからこれ見よがしに大声で声をかけてくる男性がいた。
「いやいや、これは、バイヤーズ殿ではないですか」
ミシェルの父親は小さく、本当にカエデが聞こえるぐらいの小声で「はぁ~」と低い声をだす。そして、相手を確認してから
「これは、カイザー殿。どうかされましたか?」
ミシェルの父親は余所行きの声でケイトの父親、カイザーに声をかけた。
「いやいや、文官相手に婚約者の父親というだけで高圧的な態度をとっているバイヤーズ殿を見かけましてな。あまりに文官達が不憫だったので声をかけさせていただきましたよ」
ニヤニヤしながらミシェルの父親に話しかける。
「それは、誤解を招くような態度でしたか。あまりにも言葉を濁すので何事かと聞いていたところなんですよ」
にこやかに話すミシェルの父親に待ってましたとカイザーが声をかける
「その件ですがね…」
カイザーが話を続けようとした時、
「お父様!」
頭を下げたままのカエデも分かる、アイツの声だ。
「ケイト、駄目じゃないかここは王宮。邸のように大声で私を呼んではいけないよ」
甘い声で注意にならない口調で諭すカイザー
「あっすみません。バイヤーズ様もいらっしゃったのですね」
頭を下げている視線からも分かるケイトともう一人男性らしき姿が見えた。
ん?この煌びやかな衣装は…。
ミシェルの父親も思うところがあったのか
「セオドア王子、お久しぶりでございます」
と少し苛立ちながらカエデにも分かる様に挨拶をした。
はぁ~。セオドア王子何してんの?どうして、ケイトと一緒に王宮にいるのよ?
こっちの世界なら黒確定だよ!
セオドアは頭を下げている小間使いを見つけると
「そこの者頭を上げよ」
と許可を出したのでカエデはセオドアに見せつけるように白目をしながら頭を上げた。
セオドアしか見ていないケイト、ミシェルの父親しか見ていないカイザー、セオドアと腕を組んでいるケイトを微笑みながらキレているミシェルの父親、三人ともカエデの視線には気づかないので不敬なカエデの白目を見たのはセオドアだけだった。
セオドアは思わず
「(失礼)なっ」と言おうとしたが、どこかで見たことあるような…?
思わず首を傾げていると、それに気づいたカイザーも小間使いに気が付く。
そして、上から下までお決まりの舐め回す視線を送るとずいっと近づいて小間使いの顎をクイっと持ち上げた。
「バイヤーズ殿も中々いい趣味をしておられる」
と顎を持ったまま左右に顔を強制的に向かせた。
ミシェルの父親は怒りを落ち着かせながら
「カイザー殿おやめください。ケイト嬢も見ておられますよ」
軽くたしなめると、ケイトはコロコロと笑いながら
「バイヤーズ様、私ならば大丈夫です。お父様の趣味は知っておりますので」
いやいや、アカンやろ。娘ならきゃぁ~不潔ぅ~とか言うんちゃうの?
されるがままのカエデは心の中でツッコんだ。
すると、セオドアがカイザーの手首を持って
「カイザー殿、私の前ではやめたまえ。気分が悪い」
その言葉を聞いたカイザーはすぐに手を戻し、小さい声で謝罪をした。
「セオドア王子、これは失礼しました」と
ミシェルの父親とカエデは「そっちに謝るんかーい」と思ったが
「セオドア王子のご配慮に感謝いたします」とのミシェルの父親の言葉で二人で小さく礼をとった。
セオドアはミシェルの父親に視線を移すと
「さて、私に話があるんだな。ちょうどこの後時間が空いているので私の部屋に来てもらっても大丈夫だろうか?」
セオドアの言葉に
「えっ、セオ様はこの後私とお茶をしてくれるとおっしゃってましたが!!」
甘えるように組んでいた腕をギュッと握りしめておねだりをしたが
セオドアは微笑みながら
「それは、私の時間が空いていればの話だっただろ?今その空き時間が無くなったのだよ」
諭すように声を掛ける。
「でもぉ~」
納得できないケイトを見ながら
「ほら、ちょうどケイト嬢の父親もいるのだから二人で邸に戻ると良いよ」
セオドアに遠まわしに帰れと言われて気分が悪いケイトは分かりましたわ。と言い父親にエスコートされながらミシェルの父親には笑顔でお辞儀をしたあと、小間使いに聞こえるように
「お前はその内お父様に可愛がってもらえばいいわ」と
低い声で囁くと小間使いが小さく震えるのを確認し鼻で笑ってから
その場を離れて行った。
こわ~。この子悪魔の子だわっ。
さすがのカエデも堪えたのか、涙目になりながらミシェルの父親に訴えた。
ミシェルの父親は小間使いの頭をポンと叩くと
「言わんこっちゃない」
と言いながらも慰めてくれたので、小間使いは目元を赤らめてテヘッと微笑むのでミシェルの父親も微笑み返した。
それを間近で見ていたセオドアは内心驚愕していた。
確か、バイヤーズ殿は愛妻家だと聞いていたのだが、そのような趣味もおありだったとは、これはミシェルに伝えた方がいいのだろうか…。いや、知らない方が彼女の幸せなのかもしれないな。
と自分なりの考えがまとまったところで、一つ咳ばらいをした後
「では、私の部屋に行こうではないか」
とミシェルの父親に伝えた。
最後までお読みいただきありがとうございました。